モト

月のモトのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.5
感想を述べるのも憚られるほどの作品。みることができてよかった…。
妹と観て、ファミレスで3時間くらい語り合った……必要な時間だったと思う。

健常者の境界とは?なぜ人を殺してはいけないのか?そもそも人間の定義とは?生きる/死ぬとはどういうことなのか?心とは何なのか?選択できるということは果たして幸せなことなのか?幸せとは何なのか?生産性のない生命体に価値はあるのか?私/あなた/彼らは何のために存在しているのか?人類は繁栄し続ける必要があるのか?……

答えは出ない。

考え続けることに意味があるように思う。
…というのもおそらく綺麗事に過ぎなくて、やっぱり本当のことは当事者にしか解り得ない。人間は主観的にしか物事を理解できないから。だから、想像し続けるしかないし考え続けるしかない、という方がきっと正しい。

でも、もっと言うなら、考える以上に感じなければならないのだと思う。
被災地の匂い、汚物の感触、死ぬ瞬間の音…感じ続ければ、答えは出なくても、体が勝手に動き出す。なすべきことをなすことができる。
…ラストシーン、寿司屋を飛び出て行く洋子の姿は、そんな風に見えた。

そうやって選んだ答えらしきものは、必ずしも正しいとはいえないかもしれないが、人間らしい答えであり選択だと思う。


…そういう意味では、さとくんも人間らしい選択をした一人だ。
自分で感じ、考え、行動をおこしたさとくんを、私はある意味で尊敬している。

もちろん私は人を殺していいとは思わないし、それは障がいの有無に関わらないと思っている。
でも、それでもやっぱり、さとくんを尊敬している。誰もが目を逸らし遠ざけて来た問いに真正面から踏み入ったわけだから。

それに、私にはさとくんを裁くことが出来ない。だって私はあの施設の人たちを殺しはしないが、生かすこともしないからだ。
税金は払っても、施設の人に噛まれながら食事を食べさせたり、空を見ながら自慰を続ける老人の汚物処理をしたりはしない。やれと言われても、やりたくない。やらない。
…これは間接的な殺人とも言えるのではないか。生きる為の支援をすることを拒むということは、極論死ねというのと同義ではないのか。
都合の悪いことを他人に押し付けておきながら、正論を振りかざすことは出来ない。

もしも障がいをもった子を身ごもっていることがわかったとして、わたしはその子を産む決断ができないと思う。

私にはさとくんを裁くことが出来ない。
答えは出ない。
モト

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