ヒラツカ

ダム・マネー ウォール街を狙え!のヒラツカのレビュー・感想・評価

3.6
2021年に起こった、ゲームストップ社の株が異常に急騰した事変の話。僕はこういう金融経済まわりのニュースに疎く、これはぜんぜん知らないエピソードだった。というか、そもそも昔から、なぜ銀行や証券会社が儲かるのかメカニズムが腑に落ちない、という言い訳をしながら、ファイナンス寄りの領域にあんまり近寄らないようにしていたんだよな。なので、スコセッシの『ウルフ・オブ・ウォールストリート』やアダム・マッケイの『マネー・ショート』も、好きなんだけれど、映画が持つエネルギーの根幹にある、専門的情熱と修羅の世界みたいなものについては、「知ったか」をして頷いているだけという「キョロ充」だった。しかし近年、そんな僕にも、確定拠出年金やNISAとか、「ひろゆきの切り抜き」みたいなものが向こうから歩み寄ってきはじめ、いまでは米国インデックスファンドに貯金を分散させるようになったりしたわけで、そんなふうに、ファンドやトレーダーたちだけではなく、ずぶの素人が片手間に資産を運用する時代になったというのが、今回のショートスクイズの要因だったということか。
ファンドが空売りに重宝していた株を、「逆に伸びるぞ」と扇動して購入するように呼びかけていた配信者ローリング・キティを、ウォール街の富豪たちに挑んだ反体制ヒーローとして描いている。今回、この活動が無名のネット住民たちによって成り立っているというのが新しい。こういうデジタルでアノニマスな構図自体は『電車男』が20年前にやっていたことだし、『サマーウォーズ』とか『レディプレイヤーワン』みたいなバーチャル空間では何度も行われてきたレジスタンスのくだりではあるが、「株式取引」といった下世話な現実世界に降りてきたときに、ネット上の扇動というのは、果たしてとっても親和性があった。僕はSNSやニュースサイトで発生するファンダムやヘイトの「うねり」が大っきらいなので、そういうところにはあんまり関わりたくないという気持ちは変わらないけれど、でも、万が一巻き込まれていたら僕だったらどうしてたかなと思うと、やっぱり中途半端なタイミングで売ってしまう気がする。その点、看護師のアメリカ・フェレーラや、ラテン系の店員やパリピの女子大生たちが、信念を曲げずに逃げることをしなかったのって、けっきょくどうしてだったのだろうという動機が読み取りにくかったな。
僕ら世代のナード・ガイの第一人者であるポール・ダノが、相変わらず気持ち悪いのに憎めない特異なキャラクターを好演。ジェシー・アイゼンバーグやジョン・ヘダーが卒業していく中、期待を裏切らない。ファンド側の富豪を演じたセス・ローゲンも、どこかキュートで好ましい。公聴会の背景を選ぶシーンとか、声出して笑っちゃった。これが、例えばだけど、ザック・エフロンとジェームズ・フランコとかだったりすると、ぜんぜんこのどこか軽くてユーモラスな空気感の映画にはなってなかったわけで、つまりはキャスティングが上手。ロビンフッドの経営者のセバスチャン・スタンや、サラリーマン店長のデイン・デハーンも良かった。
音楽がごきげんなヒップホップ中心だったのも楽しく、テーマ曲のホワイト・ストライプス「セブン・ネイション・アーミー」がかかったときには踊り出しそうになりました。