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ナポレオンのkakakaのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
3.7
ナポレオンの肖像画の中でも、最も有名かつ誇張された「サン・ベルナール峠のナポレオン」を描いた画家のダヴィッド。同じく「皇帝ナポレオンの戴冠式」を描いた彼は、本作のナポレオンの戴冠式シーンでダヴィッド自身も描かれている。
ダヴィッドはその絵画からも分かる通り、ナポレオンを崇拝していた。言わば彼にとってナポレオンはロックスターのようなもの。
しかし本作のナポレオンは、正直言って崇拝されるような、カリスマ的な人物としては描かれていない。
数学に秀でており、非常に読書家で、過去の歴史書から兵法を学んでいたそうだ。そういうシーンをもっとドラマティックに描いて欲しかったが、本作はただ、年号順に、歴史的に見て大きな分岐点だった部分を淡々と描いている印象がある。
ホアキン・フェニックス演じるナポレオンも、姿は似ているが、どこか陰鬱でとても野心に満ち満ちているという感じではない。
何故、こういう構成、演技プランになったかは不明だが、思うに、現代の世界情勢を見るに、為政者の独裁政権における侵略行為等、きな臭いトピックが溢れており、ナポレオンを英雄的に描くよりも、いかに名を成した歴史的人物も、その足元には何百万という犠牲者がおり、人間はいずれ最後は虚しく死んでいく、ということを描きたかったのではないか。ラストシーン、ナポレオンの功績をただ羅列するのではなく、その時々の戦の犠牲者数を描いて見せたのは、そういう事に思えてならない。
「英雄か、悪魔か」なんて思える程、際立った人間としては描いていない本作だが、かえってホアキン演じる人間味のある疲れたナポレオンだからこそ、ラストシーンは染みる。
人間、過ぎた野望は持つものではない。
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