Tanuki

ナチ刑法175条/刑法175条のTanukiのレビュー・感想・評価

ナチ刑法175条/刑法175条(1999年製作の映画)
4.1
1871年にドイツで制定された、同性愛を禁じる「刑法175条」。ナチスの支配下、同法によって大勢が強制収容所に送られた。1999年製作のこのドキュメンタリーでは当時存命の生存者たちの証言を通して壮絶な弾圧の実態を可視化する。「175条」が撤廃されたのは94年、最近の話だ…

映画ポスターにも表されているピンク色の三角形(ピンク・トライアングル)は、男性同性愛を理由に収容所に送られたことを示すバッジとして用いられたもの。これは後から知ったことだけど、今ではLGBTQ+のアイコンとして、カウンター的に使われることもあるんだとか。

生存者たちの証言は、トラウマがその後の人生に負の影響を与えたことを痛いほど伝えてきた。自身も同性愛者であり、同性愛者の権利を訴えたマグヌス・ヒルシュフェルト医師の存在を筆頭に、セクシャル・マイノリティに寛容な雰囲気のあったベルリンが、地獄と化す様を想像する。

この刑法は女性同性愛者を対象にしなかったが、女性の性的指向は矯正可能であるということを根拠にしていて(おそらく男性の手によって無理やり生殖できると想定している)「女性同性愛者は対象にならずよかったね」という話でもないなと思った。

当初は同性愛者であることが明らかになっている配下を置き続けるなど、取り立てて弾圧の意思のなかったヒトラーが、対立派閥の共産党に煽られて、自身の論理を補強するために同性愛者の弾圧に乗り出す…という流れも最悪だなと思ったし

「心身ともに健康で忠実なアーリア人を増やす」という論理のもとでユダヤ人や障害者の迫害が行われ、同じ論理によって同性愛者の弾圧も行われた。その中で女性はほぼ「産む性」として扱われていたのだ…という、これまで書籍などで見たナチスドイツのあり方を思い出しながら見た。
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