ヒラツカ

Saltburnのヒラツカのレビュー・感想・評価

Saltburn(2023年製作の映画)
4.0
『プロミシング・ヤング・ウーマン』では、男性優位の社会に起きる性加害問題をコミカルかつ痛烈に描いたエメラルド・フェネル監督、最新作はこれまた一筋縄ではいかない怪作を繰り出してきた。映画の冒頭は『君の名前で僕を呼んで』みたいなボーイズ・ラブなのかと思わせ、物語が進んでいくにつれて今度は「上流階級ってヤバいよね」という格差問題を扱う感じになっていく。しかし、次第にオリヴァーの行動に「ん?」と思わされるポイントが増えていき、最終的に蓋を開けてみると、真にヘンだったのは誰だったのか、ということに。そんなミステリアスでアブノーマルな主人公は、この人しか演じられないでしょう、若手最狂のバリー・キオガン(て呼ぶことになったんだ、コーガンは睾丸みたいだから、ってこと?)だ。今回いちばん輝いていた奇行は、なんといっても風呂の残り湯ズビズビだろうか、それか姉ちゃんがマゾヒストだと分かった夜のドSの攻め具合、もしくはラストシーンの全裸ダンスになってくるかな?この人、『聖なる鹿殺し』や『イニシェリン島の精霊』のときに演じた「イノセントな狂人」のときには無かった要素である、「性的な悪辣さ」の演技を身に着けたようで、こうなってくるともうすっかり無敵ですね。金持ちの家庭に寄生するのは前述の『聖なる鹿殺し』と似た構図ではあるものの、(そういえば仮装パーティで鹿の角をつけてたのはそういうサービスかな?)どちらかというと、狂乱の豪邸パーティやオープンカーで激走するシーンなどは、『華麗なるギャッツビー』に相似してるなと、個人的には思った。
金持ちの息子役のジェイコブ・エロルディと危うい姉ちゃんを演じたアリソン・オリバーという人たちはいままで存じ上げなかったが、きちんと実力のある美男美女の若手であり、今後どんどん売れていったらよろしい。そして、母ちゃん役だったロザムンド・パイク、この人って相変わらず強いですね、胡乱で世間擦れしてる富豪という役柄は、大仰でステレオタイプに演じてしまうと面白くないけれど、彼女の場合、会話中に「こいつわかってないようでわかってんのかな」みたいな絶妙な表情を繰り出したりして、『ゴーン・ガール』の役のメタ・イメージがあるからかもしれないけれど、まったく底が知れない。
ラストに出てくる「種明かし」のシークエンスは、ミステリとしてはスッキリするが、なくても良かったんじゃない?とも思ったりするけれど、まあこれは好みの問題かも。