KunihiroMiki

ビニールハウスのKunihiroMikiのレビュー・感想・評価

ビニールハウス(2022年製作の映画)
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昨今は社会問題、社会課題、という言葉がビジネス用語のように扱われている場面が増え、皆がそういったことに積極的に目を向ける風潮は良いことのように思いつつ、そういうものすら商機に変えよう、という魂胆には危うさのようなものも感じる。得てして言葉が一人歩きするときには、実像にある重さは抜け落ちていく。

自分も含め、我が身から少し距離のある環境や人権といったことには熱心だが、親の介護や痴呆といういつか確実に直面することには目を背ける。

背けているからジリ貧な構造が変わらず、自分の番が回ってきて途方に暮れる。

主人公の彼女のように、他人の痴呆老人はケアできても、実の親のケアは耐え難いものなのかもしれない。そしてそれは、死後の大きな後悔にも繋がっていくはず。

「自分をこまらせる人は殺していい」と、彼女はスンナムに言う。なぜこんなこと言ったか。事故とはいえ他人を死に至らしめた彼女のなかで倫理観が変化し開き直ったから、ということではなさそうだ。
彼女は終始、他人に刃を向けることができず、自分をひたすら押し殺す抑圧的な人間のままだ。ままなのだが、彼女の言葉や嘘を起点に、周囲には死が伝染してしまう。

少子高齢化社会の深刻さをサスペンスの力を借りて伝えたかった、という監督はまだ29歳だということに驚いた。鋭すぎる映画だ…。
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