ぶみ

ビニールハウスのぶみのレビュー・感想・評価

ビニールハウス(2022年製作の映画)
4.0
半地下はまだマシ。

イ・ソルヒ監督、脚本、キム・ソヒョン主演による韓国製作のサスペンス。
盲目の夫と認知症の妻の訪問介護士として働く主人公が陥る負のスパイラルを描く。
主人公となる介護士ムンジョンをソヒョン、盲目の男性テガンをヤン・ジェソン、彼の妻ファオクをシン・ヨンスクが演じているほか、ウォン・ミウォン、アン・ソヨ等が登場。
物語は、介護中に暴れ出したファオクが転倒して亡くなったため、同じく認知症を患うムンジョンの母親を身代わりにして隠蔽する内容が中心となるのだが、このあらすじだけでも、介護に認知症という現代社会で待ったなし、かつ顕在化されている問題が含まれている。
そこに、ムンジョン自身も自傷行為があり、なおかつ息子も少年院に入っているという、先日観た成島出監督『52ヘルツのクジラたち』も真っ青になる程、数々の問題を登場人物が抱えているのに加え、明るいエピソードも皆無で、終始陰鬱としたトーンで進んでいくため、観ているだけで、かなりダメージを喰らうことに。
何より、主人公が住むのが、農地にポツンと佇みタイトルにもなっているビニールハウスであり、公式サイトによれば、不動産価格の高騰や経済の低迷により、正規の住宅を失った低所得者層、移民労働者が転がり込むなど、半地下や屋上部屋よりもさらに「最底辺」住居として社会問題となっているとのことで、韓国の住居事情を如実に表しているため、邦題のキャッチコピーである「半地下はまだマシ」と言うのも、決して的外れではない模様。
ただ、そんなビニールハウスの中が、思いのほか整っており、最底辺感が伝わってこなかったのは、少々残念だったところ。
説明的な台詞ではなく、仕草や視線でそれぞれが置かれている状況を示してくれる演出と、劇伴が廃された静かな映像のなか、ひたすら暗いエピソードのオンパレードをこれでもかと繰り出す徹底ぶりに見事に打ちひしがれることになるものの、一瞬の選択から、負のスパイラルにあっという間に迷い込むこととなる展開と、各人物の行く末に目が離せなくなるとともに、日本版を作るならば、主人公は天海祐希か真矢ミキかなと思う暗さ満点な良作。

いずれ、見えないことを忘れる。
ぶみ

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