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サイレントラブのプライのレビュー・感想・評価

サイレントラブ(2024年製作の映画)
2.3
声を失った青年と視力を失った音大生が心を通わすラブ・ロマンス。

久石譲さんが手掛けた楽曲が素晴らしく、主人公2人の純粋な心に相まって、その音色に清廉さを覚える。そして何よりも山田涼介さん・浜辺美波さん・野村周平さんを映した輝かしく美しいショットの1つ1つに釘付けとなる。本作の良いところは、その2点のみ。それ以外はない。ショットについては正確に言うと、物語にヘンテコな箇所が数多くあり、ショットの美しさが逆に珍奇な絵面を作り出して仇となっていることもチラホラ。また、登場人物たちの心情を感じ取らせるショットが少なく、登場人物たちに全く愛着と共感が沸かないし、行動原理が読めない。

声を失うことと視力を失うことの設定が物語に活きてない。声と視力と同時に失ったものがあって葛藤を覚えるはずなのに、全く描かれない。浜辺美波さん演じるキャラも「視力を失ってピアノが上手く弾けない」と口にするだけであり、視力を失う前と後の技量の違いが全く分からない。喋れない人間と目が見えない人間による特殊なコミュニケーションを映したいだけの域に止まっている。

山田涼介さん演じるキャラが貧困層で浜辺美波さん演じるキャラが富裕層として貧富の差を描いているが、得意のショットで全く映してない。「自分たちは住む世界が違うんだ」と口にするだけで終わり。映像で語ってくれないので「え?この作品、貧富の差を言及して社会の縮図を投影してたの?知らんわ〜」となる。

登場人物全員が思い込みと決め付けが多く、誰も彼もが他人に自分の行動と価値観を押し付けている。

浜辺美波さん演じるキャラが、どれぐらい視力を失ったのか分からなかった。歩くのは覚束ないが、他人と会話する時は他人の目とピントが合っている。時々、視力を失っている設定を忘れる。

全体的に美しいショットを撮りたい願望が先行し、登場人物の感情表現がお座なりになっている。そのため、登場人物の心境が物語を通して、全く数珠繋ぎになっていない。劇中で出来事が多発するけど、感情と心境の蓄積がないから観ていて全く心が揺さぶられない。「なんか出来事が起こったぞ」や「こういうショットを撮りたかったんだな」と俯瞰的な見方しか出来ない。


⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐
演出・映像   :⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐
設定・世界観  :⭐⭐
星の総数    :計9個
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