このレビューはネタバレを含みます
共同体の偽善、欺瞞が、
炙り出され、むき出しに。
模範兵が、一転、売国奴と呼ばれ、
子どもからも石を投げられる。
本人も、最初は、
出征できずに不名誉と嘆くが、
視覚を失ってその異常を知る。
模範人の象徴たる鐘も捨て、
「お前のおかげで、わしゃ、
普通の人間になれたんじゃ。」
これは、恋愛の狂気を描いている
ふりの、清作の覚醒の物語だった。
新藤兼人の脚本、増村保造の伶俐な演出、
絵作りも素晴らしい。
過酷な状況のなか、白黒画質と相まって、
若尾文子の極限の美しさは、
もうたまりません。
集団主義に染まらず、
既存の共同体の価値観を揺さぶる者の
侵入による揺らぎは、『ショコラ』あたり
を思い出すが、
この映画では、共同体の側が変わるのではなく、システムは温存されたまま、気づいた者が、ひっそりと生きていく姿が描かれる。
口先で忠國や名誉を言っている者たちが
正義の名の下に、凶暴な暴力集団となる
シーンはあまりに強烈。
暴行シーンの若尾文子は、本人なのかな⁈
髪を掴まれ、頭から振り回されていて
芝居とわかっていても、心配になる。
戦死家族そっちのけの
提灯行列のシーンに、
小説版「春の雪」のオープニングを
思い出した。