さりさり

九十歳。何がめでたいのさりさりのレビュー・感想・評価

九十歳。何がめでたい(2024年製作の映画)
2.8
佐藤愛子さんの大ファンである。
特にエッセイが大好きで、佐藤さんの作品はほとんど読み尽くしたと言ってもいい。
でもあまりにも好き過ぎて『九十歳。何がめでたい』の映画化は素直に喜べなかった。
嫌な予感しかしなかったのだ。
主演が草笛光子さんと聞いて「いや、佐藤さんのイメージとは違うでしょ」と更に不満だった。
だから劇場に観に行く事もなかったし、配信化してもなかなか観る気分にはなれなかった。

今回恐る恐る再生ボタンを押してみたけれど、やっぱり観なくても良かったと思った。
こんな言い方は本当に失礼かもしれないけれど、単刀直入に言って面白くなかった。

私なりの勝手に膨らんでいた妄想なのかもしれないけれど、佐藤さんは太陽のように明るくて、春風のように清々しくて、天真爛漫の笑顔が似合う、とてもチャーミングなおばあちゃんなのだ。
毒舌を吐いても決して嫌な気分にはならず、それを笑いにさえ変えてしまう、表現力の豊かさと心の広さ・温かさがある。
草笛光子さんには大変申し訳ないけれど、今回の演技はただの嫌味な婆さんにしか見えなかった。
佐藤さんのトレードマークでもある「爽やかな笑顔」が、ひとつも見えなかったからだ。
ていうか、特に役作りはしてなかったんだと思う。
素の草笛さんなりの「佐藤愛子」を演じたんだろう。
「草笛光子生誕90周年記念」と銘打って制作された映画のようだし、草笛さんのために作られた作品なんだと思う。
でもそれなら尚更に佐藤愛子ファンはがっかりである。

唐沢寿明さんが演じた担当者との絡みもわざとらしい演出だったし、唐沢さんの背景の家庭問題も、よくありがちな薄っぺらい話だった。
それこそお涙頂戴物語である。
にも関わらず、泣く気にもなれなかった。

エンドロールで流れた実際の佐藤さんのコスプレ年賀状を拝めたことだけが、唯一の喜びであった。
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