マーフィー

その鼓動に耳をあてよのマーフィーのレビュー・感想・評価

その鼓動に耳をあてよ(2023年製作の映画)
4.5
2024/02/03鑑賞。
足立拓朗 監督、圡方宏史プロデューサーの舞台挨拶付き。

「だって来た時より悪くさせるわけにはいかないじゃないですか」


東海テレビドキュメンタリーの手腕が光る丁寧な取材。
よくこの姿を届けてくれた。
コロナ禍の、しかも5類移行前の救急科の姿を直接映した記録が届けられていることは奇跡だと思う。
意義深すぎる。

働きぶりだけ見たらものすごくブラックに見えるんだけども、
それぞれが自分たちの意志と使命感のもと「断らない救急」を実現し、そしてどこか楽しそう。
これがただの医療現場のリアルを伝えるだけのしんどい映画とならない大きな要因だと思う。
やりがいや魅力も存分に伝えることに成功しているのだと思う。


救急科は「医者としてなんでも診ることができる」という部分が魅力にもなりうるし、「なんでも見なくてはいけない」「他の専門科に比べて浅く広くなる」ということと表裏一体であるように感じた。
医学書で薬を調べるシーンでは、広くあらゆる病気や疾患を診る必要がある救急だからこそ、他の専門医とは違い自分のカバーする範囲を全て知りつくしていることはないと思うし、それだけに対応がめちゃくちゃ大変だと分かる場面だと思う。

そして専門医の技術を見て、少し迷う櫻木研修医。
コロナ禍の「断らない救急」の奮闘がドラマになっている傍ら、
この救急科ならではの櫻木研修医の迷いからの決断も、このドキュメンタリーにおける小さなドラマ的要素になっていたと思う。


そんなある種特殊な立ち位置である救急科は、必要とされる科なのに、業界では立場が下。
蜂矢医師自身も「究極の社会奉仕」と言っていたし、
救急科を「振り分けているだけ」と思う専門医もいるとのこと。
医療業界の救急科は、仕事全体の中の福祉業界の立ち位置に近いなと思った。
さらに福祉の現場にクローズアップすると、救急科との共通点も感じられた。
耳に虫が入った女の子、どんぐりを鼻につまらせた男の子、腹痛のふりして泊まりたかったのではと思われるホームレス、怒号を飛ばす人…私たちの想像を超えたケースが沢山来る。
そしてそれらに「これぞERじゃないですか」と楽しさを見出している救急医たちの姿は、
一般の人が見たら理解できないような行動をする重度障害者や、一見理解し難い行動をする認知症患者などなど…想像もしていなかったケースを扱う福祉の現場にも、重なる部分があると思う。


自殺しようとした人を助けることについて、
「肺がんの人が肺炎で亡くなる可能性があるのと、精神疾患を抱えた人が自殺をしてしまうのは、そんなに違うことじゃない」
病気のせいでそうなる可能性があるから肺がん患者の肺炎を治して、精神疾患の可能性がある人の自殺を救わないなんて話はありえないと、蜂矢医師は言う。
最もな理屈と感じるとともに、この理屈が一般的になっていないところに、うつ病などの気分障害が他の疾病と同列に扱われない社会の闇を感じたというのは大げさだろうか。



すごく基本的なことだけど、救急車の正面に印字された、反転した「救急」の文字、
あれは前を走る車がバックミラー越しに文字を確認できる仕組み?



エンドロールにおそらく病院関係者の名前を全員載せている。
取材に協力してくれた掖済会病院への感謝とリスペクトが伝わる粋なエンドロール。
(パンフレット見たらやっぱり全員載せてた)

パンフレットにはもっと沢山の「困ったさん」のケースが記されている。
さらに元掖済会病院ERの医師たちが、各地で「断らない救急」を実践しているとの記載が。すごすぎる…。



舞台挨拶の話はコメント欄。
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