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アビゲイルのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

アビゲイル(2024年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

元軍医のジョーイ、元警官のフランク、裕福な家出身でハッカーのサミー、用心棒のピーター、元海兵隊のリックルズ、ドライバーのディーン。互いに面識のない男女6人は、ランバートの手引きによって集められ、とある富豪の娘を誘拐することになるのだが…。

互いの素性も良く知らぬ「レザボアドッグス」のような6人の雇われ者一味。
誰の娘を誘拐するのか?娘の年齢も知らされぬ6人が誘拐したのは、何と少女でしかも吸血鬼だったから、さぁ大変。
身代金が入るまで監視を命ぜられた6人に吸血鬼少女が襲いかかる!
「舐めてた相手が殺人マシーンだった!」というナーメテーターなネタはもう出てこないかと思っていたが、まだあった。
キャラクターの濃さで押しまくる(ややコメディ色強めな)ホラーの佳作である。

バレエの練習から帰った富豪の娘・アビゲイルを注射で眠らせ、豪邸から連れ出そうとすると警報を鳴るが、一味は間一髪で車に乗り込む。
郊外の屋敷にたどり着くと、出迎えた雇い主ランバートが手短に説明。
捕まった時に自白させないため、それぞれ偽名をつけ、携帯電話を回収。
アビゲイルの父が身代金を払うまでアビゲイルを監視しつつ待機することになる。

皆は酒を飲み談笑するが、アビゲイルの世話役を頼まれたジョーイは断る。
そんなジョーイにディーンが彼女の素性を予想してみせるが、ジョーイは「ハズレ」と冷たく言い放つ。
逆に次々と他のメンバーの素性を言い当てるジョーイ。
端的にキャラクター紹介する手際の良さ。
まるでプロファイラーのようなジョーイの観察眼の鋭さに、さぞ名高い捜査官かと思っていたら、「お前はジャンキーだ。ヤクの代わりに飴をなめ、酒を避ける」とフランクが牽制。
当てられたジョーイは「元軍医よ」と自らの素性を明かす。

それぞれに特性があっての雇われチーム。
優しさのジョーイ、知略のフランク、反抗期のお嬢様サミー、力のピーター、冷静なスナイパーのリックルズ、運転以外はテキトーなチンピラのディーンと、分かりやすくキャラが立っている。
頭の回るジョーイとフランク以外は死亡フラグが立ちまくる。

ジョーイはアビゲイルの様子を見に行くと、目隠しをされ、縛られて怯えているアビゲイルを見たジョーイは、別れた息子を思い出して情に絆され、アビゲイルの目隠しを取る。
アビゲイルは「私はパパに愛されていないの。身代金は無理」と言う。
フランクがアビゲイルの父親の名を聞きに行くと、彼女の父は政界にも影響を及ぼす大物と判明。
報復を恐れるフランクは父親が雇った殺し屋が来るかもしれないと、皆に警戒するよう命じる。

1人で部屋にいたサミーはディーンの声がしてキッチンへ。
ディーンの姿を見つけると突然首が転げ落ち、悲鳴を上げるサミー。

獣に噛まれたような切り傷に、アビゲイルの父の都市伝説に出てくる殺し屋の仕業だと感じた皆は恐怖を感じ始める。
「降りる」と言い出したリックルズが帰ろうとすると玄関の鉄扉は施錠されていた。
扉に突撃すると次々と窓が板で塞がれていく。
簡単な仕事のはずが、閉じ込められるシチュエーションスリラーに早変わり。
どう考えても、これから殺されていくのは誘拐犯の一味である。

恐怖に怯える中、リックルズが何者かに顔を引きちぎられて死亡。
一体誰が?と一瞬の出来事に震え上がるジョーイ。
フランクは、アビゲイルに殺し屋は誰か尋問しようとし、ジョーイと言い争いになる中、アビゲイルは慣れた手つきで手首の骨を外し、手錠を外す。
そして次の瞬間、牙を剥き出しにして一味に襲いかかってきた。
恐怖で取り乱したフランクはアビゲイルを銃で撃つが、アビゲイルは立ち上がり、額の傷は瞬く間に回復する。

不穏な空気を盛り上げる前半が秀逸。
後半はヴァンパイアの少女とのバトル・ホラーに早変わり。
か弱い少女だと思いきや、実は何百年も血を吸って生き続ける吸血鬼だった。
「舐めてた相手が殺人マシーン」の変奏である。
幼いのにバケモノという、このギャップの大きさよ。
本気か?ギャグか?戸惑うインパクトだ。
「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」の少女のまま歳を取らぬ吸血鬼にされ、悲しみに暮れるクラウディアを思い出したが、こちらは人間でなくなった自分を憂う訳ではなく、ガンガン襲ってくる。

一味を揶揄うように、バレエを踊りながら迫り来る姿が実にふざけている。
どうやっても死なない身体だと余裕を見せて、楽しんでいるとしか思えない。

扉を閉めて部屋を飛び出した一味は、「ヴァンパイアの知識はあるか?」と倒す方法を考える。
だが、アビゲイルにはニンニクも十字架も全く効果無し。
殺そうとしても返り討ちにあうことを悟ったジョーイは誘拐した時と同じ注射ならアビゲイルに効くと提案。

咬まれなければ、ただの怪力少女とばかりに、総出で必死に抑え込み、アビゲイルに注射を打つことに成功。
薬が効いて眠ったアビゲイルを檻の中に閉じ込める。
目を覚ましたアビゲイルは、皆の素性を話し始め、全ては血を吸うためにアビゲイルが仕組んだ狂言だったと明かす。
「食べもので遊びたい年頃なの」というセリフが、また憎たらしい。
何百年も生きているクセに猫を被るのが腹立たしい。

アビゲイルは純粋な少女のふりをして檻から出してもらおうとするが、もはや誰も耳を貸さない。
フランクは皆が見ていないところでアビゲイルに交渉を持ちかける。
屋敷を出る隠し出口を教えたら檻から出すというフランクにアビゲイルは、「書庫にある本の裏に隠し出口がある」と言う。
しかし、フランクは教えてもらったのに檻から出そうとはしない。
「そんなに長く生きてて、まだ騙されるのか?」と嘲笑うフランクにアビゲイルは不敵に微笑んで、檻を破壊。
「こんな檻、いつでも出られる」と弄んでいたのはアビゲイルの方だった。

襲われたフランクを助けるためにジョーイは窓を壊すと、陽の光が当たったアビゲイルの腕が焼ける。
しかし、アビゲイルの体はすぐに復活。

日の当たる書庫に集まったものの、夜になればアビゲイルの餌食になると、手分けして出口を探すことに。
そんな中、アビゲイルはサミーに呼びかけ、自分の僕として操り始める。

力自慢の大男ピーターはサミーに噛みつかれ、敢えなく死亡。
書庫に逃げ込んだジョーイは、お盆で陽の光を反射させてサミーに当てると、一瞬でサミーの肉体は木っ端微塵に爆発飛散。
血を吸うヴァンパイアのドス黒い血を全身に浴びる姿はパイ投げ合戦のよう。
ぶっかけられたやり過ぎの血糊の量に呆然とするジョーイとフランクの姿はクスッと笑える。

出口を探すジョーイとフランクは、制御室で監視していたランバートを見つけるが、ランバートの正体もヴァンパイアだった。
だが、ランバートはフランクに、「アビゲイルの手下はもう嫌だ、2人でアビゲイルを殺そう」と持ちかける。
「こうなったらヤケだ」と、死ぬよりもヴァンパイアになることを選ぶフランク。

そこにアビゲイルがやって来る。
ヴァンパイアとなったフランクはアビゲイルを倒した後、ランバートを殺し、逃げ出したジョーイを追いかける。
ジョーイは逃げ場がないと気づくとこの仕事でお金を得たら会いにいってやり直そうと思っていた息子に電話をかける。
しかし、留守電で息子と話すことができない。
何か守るものがある主人公が、強さを発揮して生き残るのがアクションやホラーの常だが、その希望をへし折るところはハラハラする。

フランクに追いつかれたジョーイは、フランクと戦う決意をするが、ヴァンパイアになったフランクに太刀打ちできない。
だが、フランクに投げ飛ばされたジョーイを抱き止めたのは何とアビゲイル。

アビゲイルはジョーイに「手を貸して。1人じゃ倒せない」と共闘を持ち掛ける。
今まで弄ばれたアビゲイルの言葉に戸惑うジョーイ。
しかし、アビゲイルが小指をジョーイに向け、約束の印を向けた時、アビゲイルは本心で言っているのだと信じることにする。

狡猾なフランクは、ジョーイに噛みつきジョーイを操ろうとするが、ジョーイは抵抗し、フランクに杭を打ち込もうとする。
アビゲイルも応戦して2人でフランクの胸に杭を突き立てることに成功。
フランクは木っ端微塵に爆発飛散。
フランクが死んだことで、ジョーイはヴァンパイアになることなく人間に戻れた。

アビゲイルはジョーイを殺すことなく、早く出て息子に会いに行くよう促すが、そこにアビゲイルの父がやって来る。
ジョーイを殺そうとする父の前にアビゲイルは立ちはだかり「彼女は私のそばにいてくれた」と訴え、父もジョーイを見逃す。
ジョーイは屋敷を後にし、車を走らせるのだった…。

とにかく、インパクト大の少女ヴァンパイアのアビゲイル。
バケモノなのだが身体が幼いため、力を合わせれば、何とか倒せるのでは?と思わせる。
しかし、長く生きている分、悪知恵が回り、騙したり同情を引いたりと人間たちの心を弄ぶ。
そのキャラクターの面白さのワンアイデアで押しまくる。

幼い姿で悪知恵が回るのは「チャイルドプレイ」のチャッキーにも通じるし、首の取れたディーンの死体と共にダンスをしたり、サミーを操ってヒップホップ調の音楽で踊ったり…と不気味さとコミカルさが融合したダンスは、近年のぶっ壊れた少女ロボットのホラー「ミーガン」にも通じる悪ふざけだ。
ヴィランでありながら悪ガキのような魅力があり、幼いゆえにどこか応援したくなるキャラクターだ。

クライムものから一変して閉鎖空間でのヴァンパイアとの戦いは「フロム・ダスク・ティル・ドーン」。
そして派手に飛び散る大袈裟な血飛沫で過剰な残酷さがギャグに見えるのは「死霊のはらわた」。
様々なコメディ・ホラーのエッセンスが詰まったホラー愛溢れる作品だ。

アビゲイルが倒されず、続編がありそうな感じだが、やめておいた方が良いだろう。
このインパクトは続編では絶対に薄くなるのだから。
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    映画は心の栄養、かつ最高の現実逃避。夜にお酒を飲みながら、愛猫をお腹に乗せて映画を見るのが毎日の楽しみ。最近はB級映画に突撃して自爆気味。