このレビューはネタバレを含みます
ラビに変装した強盗フランキーは86カラットのダイヤと宝石をユダヤ人から手に入れる。NYにいるボスのアビーにダイヤを渡す前に小さな宝石類をロンドンで売り、ギャンブルで遊ぼうとするが、フランキーに銃を売ったボリスは黒人ギャングを雇い、フランキーのカバンを奪えと依頼する。
2000年製作のガイ・リッチー監督の第2作。
デビュー作「ロック、ストック&スモーキング・バレルズ」は、ロンドンの鬱屈した若者たちが一攫千金を目論むドタバタ群像劇の傑作で世界的に好評だった。
ハマッたのはハリウッド俳優らも同様で、当時からスターのブラッド・ピットも熱狂。
本作に破格の低ギャラで出演し、話題となった。
基本的にインディーズな作り。
大粒ダイヤをスナッチ(強奪)しようと、ロンドン下町で総勢13名の小悪党と犬1匹が、騙し騙されの大騒動。
スタイリッシュな映像と毒気のあるユーモア、そして予想外のどんでん返し。
今見ても面白いドタバタなクライムコメディの秀作である。
地元マフィアのボス・ブリックトップのノミ屋に来たフランキーは手錠でバッグと自分を繋いでいたため、ギャングらはフランキーごと連れて帰る。
バッグには86カラットの大粒ダイヤが。
ボリスはフランキーの腕ごと切り落としてバッグを持って帰る。
黒人ギャングはブリックトップに捕まり、ボリスのダイヤを奪うから助けてくれと命乞い。
48時間以内に持ってくるように命じられ、ボリスを追うことに。
その頃、もともとダイヤを手にするはずだったフランキーのボス・アビーはダイヤを危惧してNYからロンドンへ向かう。
突然行方知れずになったフランキーを探すために現地のギャング・トニーを雇い、捜索開始。
情報屋の頭を車の窓に挟んで走り出すという荒技でボリスの居場所を掴んだトニーは、すぐにダイヤを奪ったボリスを確保し、ダイヤを無事に奪還する。
そこへボリスを追ってダイヤを奪いに黒人ギャング4人がやってきて、狭い廊下で銃撃戦の末、ボリスが死亡する。
アビーとトニーは黒人ギャングらにダイヤはどこだ?と問い詰める。
犬が食べたと迷い込んだジプシーの犬を指さしてテキトーに誤魔化すギャングたち。
「じゃあ、その犬殺して腹から取り出す!」とアビーは怒り出し、トニーに犬を殺すよう命じる。
人には容赦ないくせに、可哀想だと犬を殺すのを躊躇するトニーが笑える。
黒人ギャングも犬が可哀想だとブリックトップに渡すために、ちゃっかり奪っていたダイヤをアビーに献上。
イギリス人はどれだけ犬が可愛いのか?
ところが犬がダイヤを飲み込んでしまい、焦ったアビーは拳銃を乱射。
誤ってトニーを殺してしまった上、犬はどこかへ逃げてしまう。
踏んだり蹴ったりの事態にアビーはダイヤ諦めてニューヨークへ帰ってしまう。
証拠隠滅にボリスとトニーの死体を始末しろとアビーに押し付けられた黒人ギャングは、運悪く警察に捕まってしまう。
一方、非合法ボクシングのプロモーター、ターキッシュと相棒のトミーは元締めのブリックトップに脅されて、八百長試合をすることに。
ターキッシュは事務所であるオンボロトレーラーを買い替えるために金が必要だった。
ところがトレーラーを安く買い付けるためジプシーの村へ行くと、欠陥品を売りつけられ、返品も不可だと払った金を返さない。
これならやるよと犬を押し付けられる始末だ。
八百長に出る予定のターキッシュお抱えのボクサーが、ジプシーのミッキーをシメようとすると逆に殴られて一発KO。
ボクサーは試合で使い物にならなくなる。
困ったターキッシュは代わりにミッキーを八百長試合に出したのだが、何とミッキーは勝負に勝ってしまう。
嘘だろ!マジか!と固まったターキッシュの仏頂面が秀逸。
大損して怒ったブリックトップはミッキーの母親をトレーラーごと焼いて殺してしまう。
ブリックトップはもう一度ターキッシュとトミーにチャンスを与える。
母も財産も失ったミッキーも八百長試合を引き受ける。
ボロボロに殴られつつ、耐えるミッキー。
だが「絶対勝つなよ!」と念を押されたにも関わらず、再び試合で勝ってしまう。
またもや硬直するターキッシュには「お気の毒さま…」としか言葉が浮かばない。
ブリックトップに殺されると、裏口から逃げるターキッシュとトミーとミッキーの前にブリックトップが現れる。
ところがブリックトップは待ち伏せしていたミッキーの手下に殺される。
ミッキーは試合で自分に賭けており、大金を手に入れ、仲間と共に消えて行った。
ターキッシュらがジプシーの村へ行くと、彼らは既に逃げ出しており、もぬけの空。
そこへダイヤを飲み込んだ犬がターキッシュとトミーのもとへやってくる。
犬が苦しんでいるので獣医に見せると、腹の中からダイヤが見つかり、宝石商に「買い手はいるか?」と問うと、アビーに電話をかけてNYから飛んできたアビーがやっとダイヤを手に入れる…。
盗まれたダイヤを巡る話と、八百長のボクシング賭博の話。
一見、関係の無い話が平行線で描かれて、一体どうやってオチをつけるのか?と惹かれていく。
最後には2つの話がしっかりと繋がった上、最も底辺にいる社会的弱者のジプシーがマフィアを出し抜くのが痛快だ。
断片的にテンポ良くエピソードを繋いでいるため、ごちゃごちゃしているというのが本作の最大の難点であり、最大の魅力。
ターキッシュにしろ、黒人ギャングにしろ、大人になりきれない悪ガキどもが、ブリックトップやアビーといったマフィアに脅され右往左往。
その慌てっぷりが可笑しい。
いい歳した男どもがわちゃわちゃしているのだ。
そんな彼らのキャラクターはそれぞれ生き生きと描かれる。
ヤバい事態に困りながらもクールな振りをするターキッシュと、銃が無ければヘタレで頼りないトミーの凸凹コンビ。
失敗したら豚に食わせると長ったらしい脅しをかけてビビらせるブラックトップ。
大粒ダイヤを追い、目ん玉ひん剥いて焦りまくってロンドンを駆けずり回るアビー。
客のフランキーを平気で裏切るボリスに、人は殺せても犬は殺せないトニー。
請け負い仕事ばかりでひたすらこき使われる黒人ギャングたち。
そして、その日暮らしで金に意地汚いミッキーらジプシーたち。
どいつもこいつも冷徹になりきれない小悪党ばかりである。
「しょうがねぇな、コイツら」と笑わせつつ、どんどん事態が複雑化していき予測不可能な展開に。
説教くささは全くないし、メッセージ性も乏しい。
肩の力を抜いて、テンポの良さに身を任せて何も考えずに「馬鹿だね、コイツら」と笑って見た方が正解。
ボクシングやバイオレンスはピリッと辛いアクセントだ。
コメディなんて、ドタバタしててどんどんドツボにハマる方が面白いだろう?という監督の声が聞こえてくる。
そして複雑な事態にオチをキッチリとつけるところに監督の俯瞰的視点と脚本の才能を感じる作品である。