「Ryuichi Sakamoto Praying the Baschet」の雑多・鑑賞記録

バシェ兄弟によれば、全ての楽器は四つの要素が集まればできる。1,振動を発生させること、2,振動を伝導させること、3,スケールを生むこと、4,音を拡張させること。彫刻家の兄と音響学の弟で数々の「音響彫刻」を完成させる。彼らは彫刻、現代音楽、現代美術、様々なフィールドを横断的に活動を続けたが、晩年は教育普及に力を入れる。彼らは自らの音響彫刻を、「作品」としてではなく、「道具」として捉えており、これに触れる隣人の心に、新たな「詩」を生むことが喜びだという。
人々はもっと「音の聴き方」を学ぶべきであるという言葉があった。シルクの布の揺らめきに合わせて、数名の子供たちが彼らの音響彫刻を見よう見まねで演奏するワークショップの様子があった。だんだんと、そして確実に開かれていく音への感性がそこにはあって、個人的にここいちの最強映像だった。バシェ兄弟は、芸術家である前に教育者であると思った。
今の社会は、自転車の乗り方ではなく、自転車での走り方を教えるといってた。早く走ろうという思考が邪魔をして、乗っている時に肌をかすめる空気の温度や触感、見える花や木々の素晴らしさに気づかない。職人という職業は、そういったヒエラルキーから外れて、それぞれが自分の能力に満足しながら世界を楽しんでいるらしい。私は職人ではないけど、言っていることはめちゃくちゃわかった。あとバシェは、美術批評が嫌いらしい。時々言葉が辛辣すぎて笑った。イーノがYouTubeの広告にマジギレしてたのと重なった。こういう温厚そうな芸術家は触れてはならないゾーンがあるのかしら。
また書きすぎたけど、最後に、お兄ちゃんのベルナールバシェが言ってた言葉をメモしときたい。彼の人生の目標は、一番が隣人を幸せにすること、二番が自分が生まれてきた時よりも、世界を美しくしてこの世を去っていくことなんだと。私はまだ21歳だからこんな大層なことおっしゃれない。80歳になった時にこういって、なにかつくれている人でいたい。後半30分の龍一のバシェ彫刻演奏実践編もよかった。教授かわいいね。