半兵衛

森の石松鬼より恐いの半兵衛のレビュー・感想・評価

森の石松鬼より恐い(1960年製作の映画)
3.8
舞台「森の石松」の演出を任された演出家が悪戦苦闘の末ふて寝をしていたら、いつの間にか演出家が石松本人になっていた…。マキノ正博監督の『続清水港』に現代的なリメイクを施して作られた奇想天外な時代劇。

沢島監督らしく主人公をはじめ登場人物が勢いよく行動し、それが威勢のいいコミカルで活気のある作品にしている。主人公の中村錦之助はドアを開けるとき勢いがありすぎてドアの窓を壊し、川に千両箱が落ちたとなるやヤクザたちが怯みもせず皆川へ飛び込んでいく。あと次郎長親分の山形勲が錦之助に注意の意味で桶から水をかぶせるが、普通はそれで反省するのに全然反省せず逆に親分に勢いよく水をかける場面がやり過ぎていて爆笑する。

前半の現代パートで出てくる人達が時代劇パートで別の役として出てくるお遊びみたいな演出も楽しく、中でも現代では口うるさい支配人で後半では悪役の親分を演じる進藤英太郎がベテランらしくコミカルさと風格さを巧みに使い分ける。ちなみに石松となった錦之助は英太郎を見るや舞台でのストレスが爆発しいきなり殴りかかるのに腹を抱えて笑ってしまった。正義の味方や弱者が悪人に理不尽に暴力を振るわれるのはよく見かけるが、悪人が理不尽に暴力を受ける姿は初めて見たかも。

中村錦之助のコメディ演技ときびきびとした演技が全編にわたって弾けていて、コミカルな作風の時代劇を大いに盛り上げる。現代パートでは錦之助の秘書、時代劇パートでは恋人を演じる丘さとみの錦之助との息のあったやり取りはもはや名人芸。あとよれよれのコートを羽織った錦之助の姿が滅茶苦茶カッコいい。

時代劇専門のイメージがある沢島監督だが、意外と現代パートをうまくこなしている。錦之助が訪ねるバーでの、アメリカ映画みたいな演出が印象的。

後半からの流れは典型的な石松ものになってしまうし、ラストのオチも弱い気がするが正月作品だったことを考えるとこれでいいのかも。

ちなみに演出家の錦之助と秘書の丘さとみのキャラクターは、関係者の本などを読むとどう見ても沢島監督と奥さんの高松富久子(スプリクター)がモデルに見えてくるのが実際どうなんだろう。もしこの二人がモデルだとすると端から見ると滅茶苦茶面白い夫婦だったんだろうな。
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