キュラソー

若き日のリンカンのキュラソーのレビュー・感想・評価

若き日のリンカン(1939年製作の映画)
4.5
追う追われるといった活劇的な展開が皆無の会話劇だが、その会話劇を飽きさせないための登場人物の動きや編集の工夫、ジョークの配分に隙がなさすぎる。そして、冒頭の散歩シーンとか幌馬車が去りゆく様とかがいちいち美し過ぎる。不満があるとすれば、アンの声質が良くないのと、『怒りの葡萄』みたいに会社から無理やり押し付けられていそうな「メッセージ」がそこかしこに見受けられることぐらい。それでも文句無しのマイベスト。

アンの死をいたずらに掘り下げてその死の原因やドラマ(殺した犯人が無罪になった、みたいな)を、リンカーン(ヘンリー・フォンダ)が弁護士を志す理由と結び付ける、みたいな下手くそな脚本上の演出はせず、ただ墓を見せる。そこでのフォンダの独り言がひたすら胸を打つ。フォンダに泣かされそうになるとは。。。

ミステリ要素を全て結果としての口頭説明で済ませていて、捜査の様子などの過程については、被疑者の家族とリンカーンとの会話や関係性のドラマに関わる部分だけで、他に全然挿入しない(そもそも現場の捜査やったのか?というレベルだが)のもテンポが良くて清々しい。事件が起きたら、それについて振り返るのではなく、(映画として)次の事件を起こさねばならない。これを全編で推し進めているのがハワード・ホークス『三つ数えろ』でしょうか。
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