YOSHIDA

マネーボールのYOSHIDAのレビュー・感想・評価

マネーボール(2011年製作の映画)
4.6
扇の舞台と即興劇

本作を観るたびに、野球というスポーツの奥深さを噛み締めます。それと共に、データによってある種の画一化がなされた現代野球の行く末を憂う気持ちも少しあります。
舞台は2002年のMLB。主人公ビリー・ビーンは、アスレチックスというチームの編成を担うGMという立場。しかし主砲は名門球団に引き抜かれ、穴埋めの為の補強予算もオーナーに出し渋られ、戦力の整わない厳しい状況。
その中で勝つ為には、金持ち球団と同じことをやっていてはいけない。そこで統計学という切り口から活路を見出す、という実話ベースの作品。

野球には様々な個人成績の指標があり、単にヒットを打つ確率(打率)や9回あたりの失点率(防御率)から、チャンスでの打率やピンチにおける防御率、利き腕別の対戦成績など、状況に応じたものや守備に関係する指標まで含めると多岐にわたります。
ただ20世紀までの野球では単なる傑出度というか、打率.350でタイトル取ったからスター選手、ホームラン40本打ったから年俸はこれくらい、くらいの感覚で扱われていたようにも思えます。
暴論ですが、3割超の確率でヒットを打つ打者がいたとして、それがどれだけ得点に繋がるかは後続次第だし、ホームラン40本がチームにもたらす得点には40〜160までの差異がある。
要するに多角的に見て検討しなければ、選手個人のポテンシャルやチームにもたらす「本当の」恩恵は計れないということであって、現状の査定は本当に適切か?ということ。そこに深くツッコミを入れたのが今作のビリー・ビーン。

これにはビリー自身の選手としての経歴とも関わる話で、中々複雑な気持ちになります。ブラピの好演も光る。

僕は、野球って本当に不完全なスポーツだと思っています。ストライクゾーンの誤差だったりポジションにおける利き腕格差だったり、不均一でアンフェア。でも、だからこそ面白い。
いくらデータを集めても、誰も予測出来ない現象が起こる。球場が狂喜に包まれて、まるで劇場の様相を呈する。何度目にしても新鮮な感動をもって「これが野球!」と思える。そんな野球のある種ぶっ壊れた部分を描くのに題材としてピッタリだったように思います。
試合のシーンはさほど多くないにも関わらず、野球の面白さがしっかり伝わってくる。データ野球を主題にしているようで、ビリーの人間臭い部分もちゃんと描いている。一筋縄ではいかない、人生のドラマティックな部分が野球のそれとリンクしている。殿堂入りです!
YOSHIDA

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