fuji

魔人ドラキュラのfujiのレビュー・感想・評価

魔人ドラキュラ(1931年製作の映画)
4.0
ドラキュラ伯爵の眼光に射抜かれても正気を保っていられるのは、よほど信仰心か自我の強い人間だけだろう。白黒映画だが、あれは紛れもなく鮮血の色だ。その他ドラキュラの配下たちも目の演技が素晴らしい。

マックス・シュレック演じる『吸血鬼ノスフェラトゥ』はミイラのような怪しい老爺だったが、ベラ・ルゴシのドラキュラ伯爵は違う。
ウイングシャツにホワイトタイ、白いウェストコーストに黒いジャケットの礼服姿、膝より長い漆黒のマント。ほとんど廃虚と化した居城にはクモの巣が張り巡らされ、日没と共にコウモリたちが鳴き声を上げる。そして妖しく響くハンガリー訛りの低音と、獲物を見つけた獣のようにギラつく双眸は、まさしくドラキュラ「伯爵」と呼ぶにふさわしい高貴さや近寄りがたさを孕んでいる。
現代人がドラキュラと聞いて連想する類型は、この作品をもって完成されていたのだ。

本作は序盤に数人の死者が出ているものの、終わり方は実にあっさりしたハッピーエンドだ。あまりにも呆気なく終わったので、それまで張り詰めていた緊張の糸が一気に切れてしまった。
しかし、私はこの物語にはまだ続きがあると思っている。イギリスのバンド「Bauhaus」のデビューシングル、『Bela Lugosi's Dead』だ。
ベラ・ルゴシが亡くなった際、本作の衣装で納棺されたらしいのだが、吸血鬼が棺桶に横たわるのは昼間に日光を避け休息を取るためであって、決して永遠の眠りに就くためではない。不死身のドラキュラ伯爵は、今宵も血を求めて歩いているに違いない。


Bela Lugosi's dead
Undead undead undead...
fuji

fuji