まだ黒人差別色が強かった1960年代初頭の米アラバマ州バーミングハム(いわゆる南部)近郊の小さな町を舞台に、白人社会に同調する黒人間の社会通念に抵抗し、己の信念を貫こうとする誇り高き黒人青年ダフと妻のジョシーによる、困難な夫婦生活ながらも次第に明るい希望を見出すラブロマンス&人間ドラマ。”セクション・ギャング”と呼ばれる鉄道労働者のダフは、牧師の娘で女性教師のジョシーと出会って互いに惹かれ合い、ジョシーの両親の反対を押し切って二人は結婚する。ダフには、乳母に預けっ放しの4歳の私生児と、酒浸りでヒモ暮らしの父親がいて、これまでの放浪者的な生活よりも安定した家庭生活を望むようになり、結婚後はセクション・ギャングを辞めて製材所で働くも、ほかの黒人社員と違って白人の社員に同調しないダフは上司に反発して解雇される。そのあともダフはいろんな箇所で白人社会の弊害に揉まれ、精神的に追い詰められて感情的になったダフは、それでも寄り添って慰めてくれる身重のジョシーを突き飛ばし、家を出てしまう…。といったストーリーで、白人による不当な暴力描写は無いにせよ、公民権法の成立前の時代に、白人社会の中で精神的に肩身が狭く苦しい思いをしながら生きるアフロ・アメリカンの生活が事細かに描かれていて、ダフに感情移入できるような黒人映画好きにとっては身を切るような切ない想いをする。ダフ役の主演アイヴァン・ディクソンは元々TVドラマ寄りの俳優だが、70年代に『TROUBLE MAN(クソ邦題:野獣戦争)』や『THE SPOOK WHO SAT BY THE DOOR(ビデオ邦題:ブラック・ミッション 反逆のエージェント』といったブラックスプロイテーション作品の監督も務めた。ジョシー役のアビー・リンカーンは女優業ののちにジャズ・ボーカリストとしても成功を収め、ジャズドラマーのマックスローチと一時期結婚していた。ほかにも、ブラックスプロイテーション作品などでもよく名にする、ヤフェット・コットーやジュリアス・ハリス、グロリア・フォスターなども出演している。また、要所要所で流れる劇伴に、マーサ&ザ・ヴァンデラスやミラクルズ(スモーキー・ロビンソン)、少年時代のスティービー・ワンダーなど、当時のモータウン・レーベル所属アーティストのヒット曲を使用しており、モータウン・レコード初の映画サントラ盤としてリリースされた。私は20余年ほど前にたまたま北米版LDを購入したのを久々に鑑賞したが、本作は日本での劇場公開もビデオ発売も一切ないのが惜しい。久々に観て感動し、本国のクライテリオン・コレクションでブルーレイが発売されているので買おうと思った。