天馬トビオ

お引越しの天馬トビオのレビュー・感想・評価

お引越し(1993年製作の映画)
3.5
それまでのリアリズム描写から一転、夢か現(うつつ)かすらはっきりしない船幸祭の夜の彷徨。岩の斜面をよじ登り、小川を渡り、竹やぶを抜けて明け方にたどり着いた琵琶湖畔で少女レンコは、懐かしい家族三人の姿を幻視する。忍びやかな明け方の湖に消える両親、それは思い出との決別。ワンピース姿の自分自身との抱擁。「おめでとうございます!」という祝いの言葉は、誰のための何のためのものなのか。

小学校6年生、12歳の少女を演じる田畑智子が素晴らしい。後年花開く役者としてのすべての可能性を出し切ったと言ってもいいくらい、ここでの彼女は輝いている。両親の離婚という現実が迫るなかでの父や母との語らい。湖のリゾート地で出会った、亡き息子への思いを指一本で示す老人。クラスメートたちとの何気ない日々……。およそすべての少女の成長譚がそうであるように、この夏のレンコの出会いや別れ、得たものと失ったものは、彼女を少しだけ大人の女性に成長させる。

「来年もまた来ようね」と、帰りの車中で母親役の桜田淳子が語りかける。しかし、レンコは知っている――もう二度と家族といっしょにこの地を訪れることはないだろうと。ラスト――二学期が始まったある日、校舎から一斉に飛び出してくる小学生たち。群れ集い、笑い語らい合う集団から離れ、未来に向かって一人、レンコは歩いていく……。
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