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文学賞殺人事件 大いなる助走のkakakaのレビュー・感想・評価

5.0
地方の商社マン(佐藤浩市)が同人誌に載せた、自身の会社の内情を暴露した私小説が中央文壇の小説賞の選考に選ばれる。
スキャンダルを暴露された会社は当然首になり、商社の顧問を勤めていた地元名手の父親からも家族の縁を切られる。
しかし佐藤浩市は、全てを捨てても賞を受賞して作家として大成することを目指し、選考員に対して金、女、さらに自らの体を犠牲にして画策する。
やがて中央文壇にはびこる闇に精神を病み、虚実が混じり、小説の内容が現実を侵食していく。
原作者の筒井康隆先生が見事な長セリフを披露し、SFは中央文壇に差別されている!!と高らかに吠えるのは、本作の皮肉たっぷりの喜劇性を表しているが、反面、受賞の連絡を待つ作家本人と、受賞の瞬間をおさえようとするマスコミの様は、今も変わらない風景で、その空気感は妙に切なくてリアルだったりする。
また本作は単に文壇批判のブラックコメディにとどまらず、夢を追い、夢破れた者へのレクイエムでもある。
佐藤浩市の顛末を知った地元同人誌の仲間たちが、同人活動なんてのは所詮自己満足の反社会的行為なのでは、と言い捨てると、蟹江敬三が、「それを認めることは出来ない、それを言えるのは若いからだ」というセリフが滅茶苦茶切ない。
夢を追い、人生の全てを捧げた時間は、夢破れたら全て無駄になるのか。。。それでも、夢を見ずにいられない人間の哀しさよ。
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