トークショーでも話していたようにナレーションがセリフと重ねられたりオフスクリーンについて言及する事によりメタ的な妙味があるが、基本的には実際の動きに合わせたト書きをナレーションにしているのが中心。むしろテキストで語られても捉えきれない映像をより強固にしたかったのではと思った。
これは新聞記事が元となった映画という事だし、新聞記事のオフテキストのような筆舌に尽くせぬテキストの縁を際立たせている。

しかしながら時代の先を行きまくっている。

お金がなく、職もなく、家もないので歩きまわり、娘を連れてホテルを探し、服を脱ぎ、ベッドに横たわり、スリップの肩紐を下ろし、目を閉じても眠れなくて、起き上がり、服を着て、出かけようとして、けれどまた服を脱いで、諦めたように横たわる、というような動作の連続だけで面白い。特に何が起こるでもなく、単調にも見えるようでいて、日増しにお金がなくなっていくじりじりとした焦りが、何度も繰り返される動作のひとつひとつを際立たせていくのがすごい。街ゆく人を観察する冷徹なコメントもさっぱりしているのに鋭い。

ある単純なる逃避
ある単純なる迷子
ある単純なる墜落
ある単純なる絶望
ある単純なる思考
ある単純なる停止
ある単純なる誤算
ある単純なる誤謬
ある単純なる習慣
ある単純なる迷妄
ある単純なる無力
ある単純なる無知
ある単純なる悲劇
ある単純なる喜劇
ある単純なるペシミズム