2022 年 25 本目
『細雪』の英語タイトルって Makioka Sisters なんだって。カラマーゾフかよ。かつて大阪の船場(せんば)で栄華を誇った豪商・蒔岡家。しかし今や店は他人に売り、親の遺した財産と長女・次女それぞれの旦那の稼ぎで暮らしている。昭和版・平家物語というか、失われていく「戦前」の最後の輝きを描いた作品(1983 年だけど)。谷崎潤一郎の原作では着物や装飾品の描写が細密を極めており、出版されたのが戦時中だったもんだから発禁処分になったのはあまりに有名な話。
しかしきらびやかで艶やかな四姉妹の姿のなかにも、金持ちのナチュラルな残酷さが時おり垣間見えてひやりとする。使用人の弟が戦死したときも「ふーん」の一言。使用人は同じ人間じゃなかった時代なんですな……。確かに戦前の上流階級の文化は美しいが、こういう半奴隷的・身売的な構造で成り立っていたこともまた確かである。身分ではなくて金という形に置き換わっただけで、現在でもそこまで変わっていない気もするが。
若かりし日の吉永小百合が演じる三女の雪子はもうなんというか、さすが「監督殺し」の異名を取っただけあって殺人的美しさである。殺人的っていうかもう端的に殺人です。んでその雪子を最終的に射止めるのが江本なんすよ! エモトったって柄本明じゃないよ、野球の江本孟紀! セリフ一個もなくてほぼ棒立ちなんですけど! と思ったら江本さん、90 年代までは結構ドラマとかにも出てたんすね……。