百合

キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンの百合のレビュー・感想・評価

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ディカプリオとトム ハンクスの名演技。本当にトム ハンクスはいい俳優だ…クリスマス毎に言葉を交わすふたりには奇妙な信頼関係が築かれていく。事実に基づく物語ということで、いまも成功を収めているらしいフランクは人も殺してないし、なんかこう許せる犯罪者とでも言おうか、そのような人物として描かれる。自分の存在価値を求めるようにカールとすれ違うフランク。しかし現代の目から見ればいろいろと引っかかるところも…古い時代だから許されたのか?とにかくクライムサスペンスとしてではなくふたりの関係を楽しむものなのだろう。
ふたりの関係といえばフランクと父親の関係がグロテスクで歪。見栄を張り続けて税務署を目の敵にしながらいつまでも考え方を変えない父親はさながら旧時代の遺物…とっとと旦那と離婚してその親友と再婚した母親の方がよほど現実的な存在だなぁ(劇中では悪者のように描かれてるけど)マッチョで古臭いロマンを体現する父親と現実的な母親の間で葛藤するフランクと見れば、彼は時代の趨勢についていこうともがくゼロ年代のアメリカ国民の表象とも言えるのか?栄誉やロマンにすがって金を儲けかなり豊かな生活を送るフランク。しかし当の父親には好意を無下にされ、母親との関係も取り戻せない。旧時代のロマンは新しい現実には勝てないのだ。そしてフランクはフランスで捕らえられ、送還の途上で父が死んだことを告げられ慟哭する。飛行機から脱走したフランクは郷里の母の家を訪ねるが(どうやって?)そこには再婚し新たな子供を産んで幸せに暮らす母の姿が。現実には勝てないのだ。追いかけてきたカールに向かって「ぼくを車に乗せてくれ。ぼくを車に」と繰り返すフランクの姿の哀切なこと。ただ、現実の相克という意味なら結局居所が落ち着かず上手くいかないフランクといった姿をもっと丁寧に描いてもいい気がする。ただそれならほのぼのコメディーにはならないか…するとクリスマスの夜毎にカールに電話をかけ、「お前は話し相手がいないんだ!」と笑われるフランクも重要な意味を持つ。
嘘を吐くフランクと嘘を吐かないカールという対立も見て取れる。カールはもうひとつの近代の現実?わからない。カールはジョークも嘘もマトモに言えないまじめな人物。しかしそのカールがフランクを受容することで最善の選択をできたということが主題?近代の現実と前近代のロマンのアウフヘーベンがテーマなのか。
フランクを追いかけてきたカールがなぜ自分にそこまで手をかけるのか訊かれて、「子供だからだ」と答えるところも個人的によかった。
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