朧気sumire

ぼくの大切なともだちの朧気sumireのレビュー・感想・評価

ぼくの大切なともだち(2006年製作の映画)
4.6
本当の友情というかなり曖昧な概念をテーマにしたコメディ映画。心なしか音楽も軽快ですね。
自分の損得でしか人と接しない中年男性のフランソワ。当然友達もいない。
そして共同経営者のカトリーヌにまんまと乗せられ、20万ユーロの壺を担保に10日後までに親友を連れてこれるかの賭けをしてしまう。

友達作りに奔走するフランソワ。
しかし友達作りの方法を学ぶためセミナーに参加したり、お金で人の気を引きつけようしたり。
本人は必死。必死なのは分かるんだけどやり方がことごとくズレていて笑えてしまう。
「だ、か、ら!なんでそうなるのー!」と応援上映だったらツッコミ入れてるw

と、同時に妙な気恥ずかしさを感じて見てるだけでいたたまれない。
なんというか見ていて目を覆いたくなる。自身の黒歴史を掘り返されてる気分。

フランソワはとにかく人間関係の構築が下手。
適切な距離感というのが分からず、自分と他者の境界線も曖昧なため引き際が分からない。相手への興味関心が薄くていつも自分自分。
それでまだ適当なタイミングじゃないのに相手の領域に乗り込んでいっちゃうから拒絶される。
冒頭ではわざと人を遠ざけている厭人家のイメージだったけど、すぐに覆りました。
ただただコミュニケーションが不得意で色々と不器用な中年男性です。
小学校のころに必ず一人はいたクラスメートがそのまま何も変わらず中年まで行っちゃった感じの絶妙なリアリティ。
このキャラクター描写凄い。
フランス映画ってこういうニヒルな笑いを取るのが上手なイメージ。

ブリュノも仕方ない事情があるとはいえ押しに弱く友情のために自分を犠牲にするきらいがあって、ああ似たもの同士なんだなーと思いました。
ブリュノのキャラも絶妙なリアリティ。小学校のクラスに一人はいた。
友達でも自分と他人の境界線は守らなくちゃ駄目だ。

色々好き勝手に言った私も人のことは言えない。
実はこれを見てるときフランソワと同じように「そういえば友達ってなんだろう?なにをもって友達とするのだろう?なんで友達になるんだろう?」とグルグル友情について考えていた。

しかしそこでカトリーヌが言い放つ。
「あなたは賭けをした時点で負けていた」
「証拠などない。愛があるだけ」
なんだか浅はかにも"友達の定義"を考えてしまっていた自分への皮肉にもなっててとっても耳に痛かったです。
フランソワのみならず視聴者の私にも厳しいですね……!
でもカトリーヌのように友達の非を指摘非難できる人が身近にいてフランソワは幸運だったね。
あの最初の食事会でフランソワにお前は友達いないと手厳しかった皆も「本当はお前と友達になりたいのに一度も興味持ってきてくれないしムカついてきたからイジワルしてやる」というノリだったとしたら微笑ましい。
そうだとしたらフランソワは元々人間には恵まれてたんだな。

でも確かに証拠なんて無いですよね。これは友達だけでなく恋愛家族とにかく人間関係全てでそう。
証拠が無いゆえに裏切られたらどうしよう、実は嫌われてたらどうしよう、こんな悩み相談してもいいのかと色々不安になったりする。
けれど証拠が無いからこそ友達は自分を想って行動してくれてるんだろう、なにか思うことがあれば黙って離れず指摘してくれるだろうと信じぬくしかない(実はこれが一番難しかったりする)

この映画を見たおかげで自分を顧みられたのですっごく良かったです。
年末にこれまでの自分を振り返りたいときにもおすすめの映画。

……実はルコント監督の映画は何本か見てたけどどれも難解な印象だったので、この娯楽要素たっぷりの映画にびっくりした。もう一回ルコント監督の映画挑戦してみたい。
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