櫻イミト

ジゴマの櫻イミトのレビュー・感想・評価

ジゴマ(1911年製作の映画)
3.5
フランス映画の黎明期に制作された”連続活劇”の怪盗もので、世界初のミステリー映画とも言われている。同じ怪盗もので世界映画史に名を遺す「ファントマ」(1913)に2年先駆けて制作公開。しかし現在では忘れられつつある存在で、フランス本国でもフィルム保存されていないとのこと(映画会社が小さかったことも影響しているかも)。

一方、日本映画史の創生期を語る上で「ジゴマ」は最重要作品とされている。明治44年に公開されるやいなや記録を大きく塗り替える観客数を呼び込み、新聞や雑誌の熱狂的な報道も巻き込んで爆発的なブームとなったのだ。結果、日本における映画興行自体が押し上げられることになった。あまりにも社会への影響が大きすぎて犯罪助長が懸念されはじめ、翌年には国から上映が禁じられてしまったが、本作が日本文化に残した影響は大きく、江戸川乱歩の”怪人二十面相”も本作が元になっている。このようなブームは日本だけの現象で、現在まとまった形のフィルムが残されているのも世界で日本のフィルムセンターだけらしい。

【あらすじ】
パリの町は凶悪怪盗ジゴマの一味に荒らされていた。犯行後には必ず頭文字Zを残していくため人々はZ団と呼んで恐れていた。名探偵ポーランは捜査を開始し変装を駆使してZ団に近づくが、ジゴマも得意の変装で逃げ続ける。やがてアルプス山中にジゴマと愛人オルガを追い詰めるのだが。。。

怪盗と探偵の追いつ追われつの追跡劇が、街ロケに列車のシーンと次々に繰り広げられる。黒覆面のZ団や女性の箱詰め誘拐など猟奇なギミックはグランギニョルの伝統を感じさせる。変装の場面ではフランスの先達メリエス監督を思わせるトリック撮影が用いられ、映画の歴史はフランスが切り開いてきたのだということを思い出させてくれる。

ハリウッドがまだ長編映画を作れていない時代に、既にこのレベルの映画が作られていたことが驚き。作品世界も好みだった。明治末期に大ブームになったということは、本作は大正モダニズムにも影響を与えているのではないだろうか。

フィルム状態は良くないが話はわかりやすくシーンが次々と変わるので楽しめる。展開も奇想天外なので弁士が付くとグッと面白くなる。弁士付のDVD化を強く希望する。

※本作は前編で、「ジゴマ後編 (Zigomar contre Nick Carter)」(1912)で完結。その後、続編の「探偵の勝利 (Zigomar, peau d'anguille)」(1913)も作られた。

※「ファントマ」の日本公開は第一次世界大戦中の1915年で、本作ほどには流行らなかった。淀川長治さんの「ベスト1000」に、「ジゴマ」は挙げられているが「ファントマ」の名はない。
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