半兵衛

幽霊暁に死すの半兵衛のレビュー・感想・評価

幽霊暁に死す(1948年製作の映画)
4.0
邦画では珍しい『ロマンチック+ゴースト+コメディ』という組み合わせを見事に実現させた秀作で、そして何より長谷川一夫の現代服でも二枚目ぶりが際立つのが凄い。

長谷川一夫と奥さんの轟夕起子の美男美女(若干轟夕起子は丸くなっているけど)ぶりが最高だし、そんな彼らが全力でコメディ演技を熱演しているのも微笑ましい。そして彼らを支える斎藤達雄、沢村貞子、飯田蝶子、徳川夢声、坂本武のコミカルな演技も笑いを誘う。特に後半、幽霊(主人公である長谷川一夫の父親)が屋敷に集まった彼らを脅すときのリアクションは抱腹絶倒もの。

でもそれ以上にハマっていたのが田端義夫と花菱アチャコの親子で、二人とも本職は役者では無いはずなのにかなり目立っていたのが凄い。そしてアチャコの口調とマキノ流台詞回しがかなり相性が良くて、悪党を追求するくだりなど歌舞伎役者の名口上に匹敵する口調の良さとリズムの良さで一流の芸とはこういうものかと感心してしまった。

マキノ正博の演出はコミカルなテイストの中に怪談映画のような演出を組み込み、独自の世界観を構築する。冒頭主人公の二人が結婚するシーンで突然窓が開いて風が吹くダイナミックなシーンにビックリするが、それが中盤からの幽霊のエピソードに繋がるのが見事。長谷川一夫の主人公と幽霊(父親)の一人二役や、幽霊が出たり消えたりする編集の巧みさも印象的で、誰もいない部屋に突然幽霊が出るシーンはトリック撮影のはずなのに違和感なく繋がっているので本当にワンシーンで撮影しているかのような錯覚を覚える。

そして幽霊が息子の妻に仄かな恋情を抱いていることがこの映画に複雑な余韻をもたらす。

ただ時折幽霊屋敷にはじめて入るくだりなど、「そのシーン長過ぎじゃない?」と思えるところや過剰すぎる演出があるのが気になったのも事実。この頃マキノ正博はヒロポン中毒のピークだった時期なので、その影響があるのかも。そしてその後マキノ監督はヒロポン中毒からの入院、妻である轟夕起子との離婚と様々なトラブルに見舞われることになる。
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