アラカンの鞍馬天狗です。
本作は、1954年度作品。ということは、アラカン51歳の作品です。
始めての鞍馬天狗は25歳の時。
嵐寛寿郎は、ここまで26年間に37本の鞍馬天狗を撮ってきました。

この前年の1953年。
鞍馬天狗の原作者大佛次郎は、嵐寛寿郎の鞍馬天狗は著作権無視で、題名だけ盗んでいる、人を斬りすぎるとして、上映を中止するよう抗議しました。
会社間での協議の結果、その後以下の３本
「逆襲！鞍馬天狗」（東映）
「鞍馬天狗斬り込む」（宝塚映画）
「鞍馬天狗　疾風八百八町」（宝塚映画　本作）
以上を製作後、嵐寛寿郎の鞍馬天狗は終了することに決まります。

そして、大佛次郎は「鞍馬天狗プロダクション」を設立。原作者自ら製作に乗り出します。「正統派」鞍馬天狗を、年間５本で二年間、東宝で映画化する契約を交わしました。

以上の情報を得た上での鑑賞です。
・京都を離れ、初めて江戸が舞台となります。
・江戸では、鉄砲鍛冶の行方不明が相次いでます。
・月形龍之介演じる謎の老人と、謎の若侍が登場して、天狗と絡みます。
・女優陣は全て宝塚スターのようです。
・最後に黒覆面の天狗姿でアラカンが大立ち回りをして事件を解決します。

正直、ストーリーは単純で、ちょっと前のTV時代劇のような、悪い意味での様式化した筋書きが展開します。
「鞍馬天狗ってこんな感じだよね」的な脚本です。
そして始まってすぐに思うのが、天狗（今回は倉田典膳ではなく海野と名乗ってます）の芝居が重い？ゆったりしてる？…というかスローモー？
直立して静かな佇まいで、ゆっくりとした口調で台詞を語る。ほんとにTV時代劇に降りてきた往年の映画スターのような演技です。
アラカンの天狗は、もっと早口で、熱っぽく理想を語るエネルギッシュな感じが持ち味のはずなのに…。さらに、顔のシワは深く、肩が細くなったような気がします。
一瞬「ここまで老けたら、天狗引退も仕方ないか…」と思ったのですが、立ち回りになると、変わらずに素早い身のこなし。…コマ落とししてる？？？
などと思いつつ製作年をもう一度確認すると、なんと、ひばりと演ったあの松竹の「天狗回状」から２年しか経ってないじゃないですか！
これは、老けたのではなく、絶望の中で責任だけはきっちり果たそうと足掻いてる姿なんではないのだろうか？
それともそれは事前情報に私の目がくらんでいるだけなのか？

…わかりません。