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穴のUのレビュー・感想・評価

(1960年製作の映画)
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穴の掘削、鉄格子の切削、そして最期の穴の掘削の徹底した描写。最初の掘削は4分にも及ぶワンカットで撮られ、見るひとは、彼らが実際に穴を掘るために床をひたすら叩き続ける動作を見続ける。当然、彼らからは吐息が漏れ、疲れて、汗も出る(監督は、調査の結果、セメントを実際に用いたセットを作り出した)。

その極めて繊細な音響設計は、『穴』においては、BGMが一切用いられず、現実音をひたすら尊重していることに思い至る。昼間はひたすら刑務所内の工事音が鳴っていたことを想起しよう。

ロランを演じたジャン・ケロディは、原作者であるジョゼ・ジョヴァンニとともに、実際に起きた脱獄事件に加わっていたひとり。最初にアドバイザーとして製作に加わっていたところ、監督の依頼から実際に演じるようになる。

その彼がペリスコープや砂時計をありあわせの物から作り出し、ベッドの骨格から取り出す間に合わせのハンマーを取り出す、クローズアップで捉えられた場面は、その手際の良さを示す好例。

とりわけ重要なのは、ペリスコープが、見られる対象であった囚人たちが逆に見る主体として振る舞うことを可能にすること。

歯ブラシ、ベッド、小瓶、砂といった物がそれ本来の役割をひたすら逸脱してゆく過程を見る楽しさ。
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