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劇場版 ユンカース・カム・ヒアのhighlandのレビュー・感想・評価

3.9
素晴らしかった。サトジュンさんが「今までで一番一つ一つのレイアウトを作り込み、やりたいことをやった作品」と語っているアニメ映画。

背景が全編において林明子さんの絵本みたいな水彩風タッチで、その中にキャラクターが違和感なく配置されており驚くべきスタイル。特に画面消失点奥の方にキャラクターが歩いていきアップから粒のように小さくなるまでを捉えるとか、あるいは向こう側からこちらに歩いてくるといったショットが繰り返し出るのだがこれが非常に立体感ある作画ですごい。1カットも長く固定ショットで20秒とか30秒とか平気で回すし、その中で人物が途切れなく演技を続けるのが完全に邦画のリアリティである。今となってはこういう目が小さいキャラクターでアニメ映画作られることはないだろうなと思うので目の微妙な動きで表情を作り、自然な立ち姿で佇まいを表しているのが逆に新鮮に映る。ファンタジックな要素は三つだけ願いを叶える能力を持ち人語を喋る犬ユンカースにまつわるものだけであるが、それを抜きにすればこれほどまでにアニメーションで日常芝居を突き詰めた作品は稀有であろう。ちょっと『人狼』を思い出すくらいのリアリティ

話自体は、共働きで家に帰らず、互いに冷め切った関係の両親を持つ少女ひとみが、恋心を抱く家庭教師ケイスケが結婚で去ってしまうといった事態や、両親の離婚といった非情に変わりゆく現実をとどめるために心中で願い事をかけ、ユンカースが叶えたその結果により現実に変化が起こっていくというもの。恋する男性とその相手となる女性の幸福を受け止めるであるとか、割り切った両親の離婚を家族の絆により修復するであるとかシナリオ自体はとても保守的だと思うけれど芝居を丁寧に描きながらキャラクターの感情の機微に寄り添った演出にとても惹きつけられる。

サトジュンさんの演出は目立って技巧的なことは何もやっておらず、どこに良さがあるか上手く言語化できないところがあるのだが、音楽の入りや表情を真っ向から捉えた作画等で自然と泣かされてしまう。
2018/11/30 DVD
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