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ピアニストのtakaeのレビュー・感想・評価

ピアニスト(2001年製作の映画)
3.6
これはかなりの変態映画だよ!と言われていましたが、いやー何だろうねこれは。さすがハネケ師匠。諸々凄かったです。

冒頭の母娘のやりとりから、主人公のエリカがこれまでずっと母親に押さえつけられ縛られてきたことがわかります。
多くを求め、権威的・支配的な母親に、とにかくピアノピアノピアノ、残りの欲求はすべて抑圧する形で育てられてきたきたのかもしれない。共依存のお手本のような親子の姿。

やっぱりこういう親子関係はどこかに歪みをもたらすものなんだろうなぁ。
エリカの徹底した女性性の排除、強すぎる抑圧、自傷行為、倒錯した性癖。何かもう、精神分析の教科書になりそうな内容のオンパレード。
あの、個室でティッシュくんくんと風呂場での行為、ドライブインシアターでのシーンは観てて思わず声出ました。いやいやいやいや凄いわ...本当に根深い。

そんなエリカだけど、ある演奏会で出会った青年ワルターに想いを寄せられる。若さゆえか、めっちゃぐいぐいアプローチしてくるんですよ。私の苦手なタイプ(聞いてない)
でも、エリカは愛し方も愛され方も知らないために、2人の関係はどんどんおかしな方向に向かっていきます。

最初は主導権を握ったかのように見えたエリカ、これまでの抑圧的なファッションもがらっと変わり、このまま自分がこれまで妄想の中で願い続けてきたような関係が築けるのではないかと感じる。
でも、生身の人間との恋愛なんだからそう上手くはいかない。ていうか、あんなこと受け入れられる人いる??
そこから張りつめていた糸が切れたかのようにどんどん崩れていくエリカが痛すぎた。目をそらしたくなる痛々しさで、見てるこちらも精神的にえぐられました。

ラストは予想外で、え!そこで終わるのか!とビックリしたけど、そこから続く無音のエンドロールを見ながら、あのラストは果たしてエリカにとって救いになるのか、色々なことから解放されて生きていくことに繋がるのか、それとも...って色々考えさせられました。
しかし、あのエリカの表情は凄まじかったよ...あんなの初めて見ました。恐ろしかった。

そして、エリカを演じたイザベル・ユペールの、唇や手指の動き、まばたき、涙、目線の演技が本当に素晴らしくて圧倒されました。これ2001年の作品だけど、ユペールさん、今の方が綺麗とかどういうことなんだろうね...

もう一回最初から観たいとは思わないけど、この作品のことは絶対に忘れることはないと思います。
いやーほんとに凄かった。
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