ユダヤ系のスティーブン・スピルバーグ監督が自らの血に立ち向かって撮ったドキュメンタリー・タッチのホロコースト映画。モノクロームの中で、赤のパートカラーのシーンの印象は強烈だった。赤いコートを着たユダヤ人の小さな女の子がナチス兵から無事逃れ、そして次にスクリーンに現れた赤は、泥に塗れたあの赤いコートの女の子の亡骸だったから。ナチス親衛隊将校を賄賂で懐柔し、金儲けのためだけにポーランドにやってきた上品ぶった成金に過ぎなかったオスカー・シンドラーが、この赤いコートの女の子の亡骸を見た瞬間、雷に打たれたように自分の工場で働く従業員だけでも守り抜こうと固く決意する、という脚本はとてもよくできていると思う。シンドラーの右腕以上の存在でありながら、シンドラーに決して心を許さなかったユダヤ人会計士シュテルンが、このシンドラーを見て、初めて杯を交わすシーンには胸が熱くなる。寡黙ながらも確固たる信念を持つシュテルンを演じたベン・キングスレーは流石オスカー俳優。私財を投げ打ち、ナチス親衛隊を欺くという身の危険を冒してまでも救出しようとした自分の工場の従業員1,200人のリストが「シンドラーのリスト」だとこの映画を観て初めて理解できた。シンドラーは正に乱世の英雄と言えるし、プワシュフ収容所のゲート所長は戦時でなければ、あれほど残虐非道ではなかったのかもしれない。「戦争は常に人間の最悪の部分を引き出す」。
