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シンドラーのリストのenchanのレビュー・感想・評価

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
5.0
 序盤、車の中で取引をする場面で雨粒がついた窓の外からカメラを向けていた。雨という天気によって不穏な雰囲気を醸し出すとともに、このアングルから撮ることで内密な話をしている印象を鑑賞者に持たせることができると考えられる。
本作品中では、「物」がカギを握っていると感じた。最初の綺麗なシャツを始めとして時計やたばこ、果物やチョコレートなどの食べ物や宝石などの「物」が出てきた。そしてそれらの意味が、最後のシンドラーとユダヤ人の別れの場面で明かされしっかりと回収されるのである。車で10人、バッチで2人という表現によって、それまでの物でシンドラーが何人救ってきたのか想像することができよう。また、物を人の数に換算することによって具体性が生じ、当時の現実味やリアリティーが強調されているのではないかと考える。
B地区が襲われる際、赤ピンクのマントを着た少女が歩いており、その少女だけが色づいていた。白黒の正解で描かれているためルーズで撮られていても鑑賞者が注目してしまうのは間違いないだろう。ルーズで撮られた後、カメラは少女にフォーカスされ少女はベッドの下に隠れる行為をしていた。しかしその後の夜のシーンにて、ベッドの下や床の下、ピアノの中など様々な場所に隠れていた人々が射殺されてしまう。
少女に色がついていたのは、1つ目の理由としてシンドラーの目線を鑑賞者に伝えるためだと推察する。シンドラーは、お母さんと一緒でもない少女があちこちで人が殺されている街をさまよう姿を目で追いかけたが、少女があるマンションに入った時点で、夜に殺されてしまうことを悟ったのではないかと考える。
2つ目の理由としては、シンドラーの決意を表すためだと推察する。この少女を始め、街の多くの人が理由なく殺されるのを見て、「救う」ことを心に誓った瞬間だったのではないだろうか。
色に着目すると、本作品では最後の終戦後のシーンでやっと色のある世界へと変化する。これは戦争という陰の世界と、終戦後の陽の世界を、色彩を通して表現したのではないかと考えられる。
アーモンが鏡に向かって「お前を許す」という場面では、アーモン自身の葛藤を表しているのではないだろうか。鏡はもう一人の自分であり、鏡に向かって言ってみるもののアーモン自身に迫る圧も存在し、結局悪の自分が勝ってしまったことをこの場面では表されていると感じた。
ユダヤ人女性が血を使って血色を良く見せようとする場面では、その様子を最初に映し出し、その後にセリフとして「元気よく」と言っていた。このように表現することで、鑑賞者に答えを知る前に、この描写はどのような意味であるのか考える時間が与えられるのではないかと推測する。
シンドラーに誘われてもシュターンは絶対にワインを飲まなかったが、アウシュビッツに送られそうになったとき、最後に飲んだ。シンドラーとシュターンの絆の証だと感じた。
リストに書く際には、一文字一文字の描写とカチカチと打つ音が強調されていた。カチという音一つ一つで死から生へと変化していくのだと、文字1つの重みを感じさせる描写であった。
先述した最後のシンドラーとユダヤ人の別れの場面では、初めてシンドラーが感情を見せた。金儲けのためだという表向きの顔を捨て、心の底にしまってきた感情が爆発していた。シンドラーにおいても、そこで初めて人間に戻ったように感じた。シンドラーはアーモンなどに強く抗議した後、とても力の抜けたような表情をしていた。戦時中のシーンでは、その表情を映すことでシンドラーの本心を示唆していたのではないかと考える。
そして、エンディングのお墓と水たまりでは、雨上がりの哀愁と生き延びた人々の晴れやかな気持ちが表現されているのではないか。最初に述べた雨の天気が終わり、ようやく晴れがやってきたことも示されていると考える。
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