サルミアッキ食べ男

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチのサルミアッキ食べ男のレビュー・感想・評価

5.0
ヘドウィグが劇中で披露する歌はどれも素晴らしいが、やっぱり一番はラストに歌う『midnight radio』。

今まではドラァグクイーンとしてフェミニンな格好をしていたヘドウィグが、それらを全て脱ぎ捨てて、あえて男性の姿で歌う。
今までの旅の紆余曲折を全て受け入れ、自分自身を受け入れる。
この瞬間、ヘドウィグは男性でも女性でもなく、ただ1人の人間となる。
もうドラァグクイーンの格好は不要。

静やかに、しかし情熱的に彼はこう歌う。
「君は美しい、そう信じろ」
「孤独な負け犬よ、お前こそがロックンローラー 踊れ、お前だけのロックンロールを」

私は今でも定期的に『midnight radio』を聴き返す。
そこには1人の孤独な人間の尊厳があるから。

今の時代だと、本作はLGBTQ作品というレッテルを貼られてしまうかもしれない。
でも、それだと、LGBTQに興味のある人は見るし、興味のない人間は見ない。
それはもったいない。

LGBTQの方にはコミュニティが少なく孤立しがち、という側面はあるかもしれないが、「孤独といかに向き合うか」は人類に共通する問題のはず。
あなたも、わたしも、人気者の彼も彼女も本質的には孤独なのだ。
孤独であることを恐れるのか、愛するのかで目の前の人生は全く違う意味を持つ。

人と出会うハードルが下がった今だからこそ、以前にも増して「人と繋がりたい」欲求が高まっている私たち。
でも、心や身体で繋がったところで本質的な孤独は決して癒されない。
孤独から逃げようと仲間を作れば作るほど、私たちの孤独は大きくなる。

「1人じゃない」
は1人であることの裏返し。

孤独な負け犬であるお前を受け入れて、お前だけのロックンロールを踊るんだ。
そうすれば、少しは孤独と仲良くなれるはず。
ヘドウィグのように孤独を受け入れられれば、人生は輝きを取り戻せる。
ヘドウィグの生き様を通して、孤独との向き合い方を雄弁に語りかける本作。
全人類必見。