死者ノック

おとなのけんかの死者ノックのレビュー・感想・評価

おとなのけんか(2011年製作の映画)
4.8
ハイカルチャーの信奉者。アフリカのいわゆる「諸問題」にコミットせずにはいられないやや意識の高い妻。世界の端はケープゴッド?アメリカン・ウェイ・オブ・ライフの申し子にして日用品店の主の心優しいがいささか粗野な夫。証券取引のブローカーで見るからにバリバリのキャリアウーマンだが、まるで建前だけで作られた人格みたいに、歯の浮く様な言葉を並べ立てる妻、とは、対照的に自社が開発した新薬の普及の為なら多少の犠牲も厭わない製薬会社の顧問弁護士の、超合理的あるいは功利的な夫は、常に本音をぶつけ続ける。

後者夫婦のやや問題のある息子が、前者夫婦の息子に暴力振るったため話がややこしい。話し合いの場を催すために前者夫婦が、後者夫婦を、自宅に招いたためにさらに話が複雑になる。夫婦対夫婦、男対女、保守とリベラル、めまぐるしく入れ替わる敵と味方、抵触するヒエラルキーとイデオロギーの衝突、やがて4人は生身の姿を曝け出してゆく・・・

傑作だ。
小学生の時に観た『水の中のナイフ』(まるでよく分からず、そりゃそうだ)で永遠に止まってしまった、私のポランスキー体験が新たになった。

俳優陣も素晴らしい。
ケイト・ウィンスレットにこんなポテンシャルがあるとは。『エターナル・サンシャイン』に比する素晴らしい演技!

『ギルバート・グレイプ』や『マグノリア』が思い出される、ジョン・C・ライリーも好きな俳優だ。

とりわけクリストフ・ヴァルツが素晴らしい。どう考えても駄作の『イングロリアス・バスターズ』で唯一記憶に残ったのが、彼だ。とてつもなく厭味で不快なはずの人間から醸し出される色気はなんだろう?われわれは彼を見つめる時はいつだって、ヴァルツが演じるSSの大佐の面前で息を押し殺すメラニー・ロラン扮するユダヤ人ショシャナみたいにして固まってしまうだろう。