映画おじいさん

脱獄者の映画おじいさんのレビュー・感想・評価

脱獄者(1967年製作の映画)
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兄・丹波哲郎は刑事、長年離ればなれだった弟・藤巻潤はヤクザという典型的な賢兄愚弟モノのスタートながら、兄が弟が属するヤクザ団にハメられて投獄、それからは脱獄モノとなったりと展開が読めない相当ユニークなアクション映画の傑作。

冒頭のゴーゴーバーでのマシンガン乱射(カウンター後ろの酒瓶が右から左へ木っ端微塵とか素晴らしい!)とか、刑期を字幕でだしたり、何より丹波哲郎主演だから東映ギャング映画調になりそうなものの、そうはならない独特ムードが最高。

丹波が牢に入れられ、しばらく静かなシーンで、間が長いけど大丈夫か?と思ったころに同じ房の囚人が「思い出したぞ! こいつオレを捕まえた刑事だ!」と突然大声をあげるというリアルタイム演出はまどろっこしさはあるけど監督の真面目さが反映されて凄く良い。

その囚人がシャバの恨みをここで晴らせるなんて最高だと丹波をなぶろうとしたら、同じ房の僧侶みたいな内田朝雄が「シャバで起きたことはシャバのこと。ここでのことは別世界のことだから一緒にするな」みたいなことを悟った口調で言い聞かせる。すると囚人もそうだな、と止めてしまう。そういうところも最高。

他の房で鉄格子をヤスリで切り倒し脱獄、しかし即拘束。その一部始終の音を聞きながら「格子を切るのに二ヵ月。切って房を出たのが十分間。新たに加わる刑期は二〜三年か…」(←うる覚え)とごちる内田朝雄。「ここを出るには表の門を堂々と出るのが一番なんだよ!」としめる。

それをどう思ってしまったのか丹波哲郎が脱獄を決意。さらには脱獄理由が弟の更生ということも加えて、丹波哲郎が何を考えているのかサッパリわからないところが良い。刑事時代は融通のきかない堅物だったのに刑務所で変わり過ぎ。そのきっかけも不明。

棺桶を使った長い脱獄シーン、何度もバレそうになるけど、ちっともハラハラしない。だからといって退屈ではなく、何とも言えないテンポがあってテンションキープ。私だけかもだけどこんなところも大好き。

その前だったか後だったかヤクザ同士の決闘のやり方もフレッシュ過ぎて最高だった! 柔道の団体戦みたいに並んで何の防御もなくマシンガンの撃ち合い。何を考えてあんな演出を…狂っている。

瀕死のリユニオン兄弟ドライブに賛否分かれそうだけど私はあれはあれで悪くはないと思います。でもやはり蛇足には違いないかも。

あと金子信雄の極悪ぶりも最高。とにかく簡単に人を殺す。スナイパーを騙して殺し、金子側だと思っていたその女も射殺…ありゃ病気だ。子分の藤巻潤は金子に撃たれて即改心。そりゃそうだ。
金子の社長室みたいなところのデスクの後ろ、一瞬ではそれとは分からないくらいデカい金庫が並べられているところとかさりげない美術さんの演出も素晴らしい!

元警察署長でオートレース天下り役員・加藤嘉とその娘も良かったな〜。いろいろてんこ盛りの88分。すごい。