わち

恐怖分子のわちのレビュー・感想・評価

恐怖分子(1986年製作の映画)
4.0
台湾のエドワード・ヤン監督の1986年の作品。監督や本作に関してはまったく知らなかったが、先に再上映が行われていた関東の評判と予告の不穏さに惹かれて観に行った。
カメラマンの青年と混血の不良少女、関係の上手く行っていない医師と作家の夫婦を中心とした群像劇で、予告編から感じられる不穏さは思ったよりも少なめで、あくまで日常と地続きな中で起きる事件と、何気ないことから崩壊していく日常が、静謐な映像で語られていく。そしてなんと言っても画がいちいち格好良くて、町並みは制作年代相応でありながらも切り取り方によってむしろモダンさも感じられるほど。特に映画のメインヴィジュアルにもなっている、風に揺れる少女の巨大な継ぎ接ぎ写真を含め、暗室での光と影の現れ方が美しかった。

映像ばかりに目が行きがちだが、特に夫婦のくだりについては普遍性があって興味深く、夫の決して悪い人間ではないのに他人を理解することも自分から行動することもできず苦悩する姿は他人事とは思えず、あの“ちょっとズルいラスト”はズルいんだけどその分悲しみもインパクトも大きいものだった。
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