SnL

ロスト・イン・トランスレーションのSnLのレビュー・感想・評価

4.1
LとRをうまく発音できない日本人や、いい加減な通訳が登場し、言語の違いが映画の重要な主題なのは間違いない。ただし、タイトルの「Lost in Translation」は単なる「言語の違いからくる疎外感」よりも一段深い意味を持つ。

最初に描かれるのは、文化の全く異なる日本への戸惑いだ。しかし、物語が進むにつれて浮かび上がるのは、言語を異にする日本人とのすれ違いではなく、長年連れ添った妻や、結婚したばかりの夫との間の「分かり合えなさ」だ。
主人公2人と日本人のすれ違いは言語の違いがあるから当然といえば当然だが、結婚相手とは言語を共有しているのだから、人間関係におけるすれ違いの理由は言語に帰結しない。一人一人の人間が異なる思考、感情を持ち、それを100%伝えきるのが不可能である以上、このズレは必ず発生するものなのだろう。
(AさんからBさんへの意思の伝達が、思考→言語化→伝達→受信→理解という過程で行われる以上、最初と最後では大きなロスが生じているはず。人間の感覚器官という信頼の置けない回路に依存したコミュニケーションはあまりにも無駄が多いし、それを避けるなら、脳に電極を突き刺して、言語を介さずに電気信号でコミュニケーションをするしかない)

ビル・マーレイとスカヨハが置かれた「異国での孤独」というわかりやすいLost状態をスタート地点にして、人間同士の感情、考え方の違いからくる分かり合えなさという1段深い孤独までを掘り下げて描き、それを言語の翻訳の際に生じる原意の喪失・ロスに見立ててLost in Translationと呼んだのかなと感じた。

MBVのノイジーなサウンドと消え入りそうなボーカルが、ネオンにきらめく東京を繊細に写した映像にぴったりだと思う。
SnL

SnL