れいな

バードのれいなのレビュー・感想・評価

バード(1988年製作の映画)
3.0

卒論でジャズの歴史を書いているので、チャーリーパーカーの映画を視聴。

推定年齢を64歳と言った医師に対して、ニカ夫人が「34歳よ」と訂正したシーンは、彼の晩年が麻薬漬けてどれだけ老けたように見えていたかが分かる。

10代の時から薬を始め、何度止めようとしてしても止められなかったチャーリーを見ていると、彼のこれまでの環境がそうさせているようにも思い、悲しくなった。ジャズに関するあらゆる論文では薬物中毒というたったの4単語で彼の私生活が書かれることが多いが、実は本人も薬物をやめたがっていたとはどこにも書いておらず、この映画を観なければ一生勘違いしたまま過ごすところであった。

ルイ・アームストロングが大麻所持で逮捕され事情聴取を受けた時「差別の痛み止めさ」と呟いたらしいが、この時代の黒人の痛みは私には想像がつかない。チャーリーは今ではビ・バップの創始者として有名だが、当時の聴衆にとってビ・バップはあまりに難解すぎて理解されなかった。彼は自らをエンターテイナーではなく、アーティストと位置付け、観客に迎合することなく自らの個性的な演奏を貫いた。理解されない苦しさ、差別、理想との乖離、過去の挫折からくる失敗への恐怖、薬と離れられることが出来ない自己嫌悪、自己肯定感の低さ、家庭、彼にしか分からない様々な苦しみを薬で紛らわせていたと邪推すると、とても切ない。

後のハード・バップを作り上げるマイルス・ディヴィスをジャズの道へと引き込んだチャーリー。誰しもが天才と呼ぶ彼の短くて実直で切ない人生を垣間見る事が出来て良かった。
れいな

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