Bahun

ファンタスティック Mr.FOXのBahunのレビュー・感想・評価

ファンタスティック Mr.FOX(2009年製作の映画)
4.5
[有無を言わせてもらえぬファンタスティック]


 僕はロアルド・ダールシリーズの大ファンで、ロアルド・ダールで日本語の読み書きを学んだとすら言える(誇張表現)。そんな僕を満足させる映画化をウェス・アンダーソンはできるのか。
 Netflixシリーズは…正直2作で観るのをやめてしまった。ストーリーは省いたところはあれど深掘りがない。『フレンチディスパッチ』と同じ語りと画を分裂させるやり口のせいで、さし絵が豪華な児童小説の朗読のようだった。だったら元の小説だっていい感じの挿絵ついてるしそっちで良くね。

 そんなわけで特に期待せず観た本作、素晴らしかったです。
 ストーリーの補足があまりにうますぎる。原作は100ページちょいの短編児童小説なのでキャラクターの掘り下げをしている暇がなく、資本家たちの鼻をあかす爽快感の一点に特化している。
 一方本作は、原作にはない展開の数々、キャラクターたちには豊かな個性と人格、眺めていて楽しい画と世界観の連続を原作の良さを殺さずに加えることができていて凄まじい。もう少しで「お前ロアルド・ダールのクローン作るの成功したんだろ!出せ!」と監督を小一時間問い詰めるところでした。アメリカ行きのチケットを返してきます。

 なんか、あまりにも夢みたいな話なんで「それでいいの??」とツッコミそうになるが、いいんです。だって夢みたいな映画なんだもの。やや捻くれたギークになってしまった僕を黙らせてしまう魅力があった。このまま俺をこの世界に連れてってくれ。毛なし猿のバフンと言います。映画を見て謎の長文を書くのが得意です。う〜ん、部屋の角でじっとしててくれないか。

 あとですよ、これ何がいいって僕が大好きな一般中年男性爆発ものでしたね。家族のためと思ってカタギの仕事についたお父さんが我慢できなくなって盗みを始めちゃう。このややブラックな風味がロアルド・ダールらしさを感じる所以なのかも。
 ただ、ブラック風味はこれだけ。動物たちは生きるのに必死だから、わざわざ他人をいじめるような暇なことはしないし、敵となる農場主も必要以上に醜く描かれない。プロレス感があると言うか…、トムとジェリーみたいだとも言えるかもしれない。敵を徹底的にやっつけるのではなく、世界観を広げて終わる爽やかなエンディング。文句なしの映画かも。

 ほぼ誰にでも勧められる映画なので4.5。正直殿堂入り(5.0)レベルなんだけど、子供の頃読んでた本の映像化が嬉しくて色眼鏡をかけている可能性があるので低めにしておく。にしたって素晴らしいよ。
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