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アマデウス ディレクターズ・カットのSadAhCowのレビュー・感想・評価

5.0
2021 年 74 本目

傑作は何回見ても良いものです。大天才モーツァルトと、彼に人生を狂わされたアントニオ・サリエリの生涯を描いた作品。19 世紀のハプスブルク帝国で宮廷音楽長を務めていたサリエリは、ウィーンに招聘されたモーツァルトと対面し、その才能に圧倒される。サリエリも決して凡庸な人物ではないのだが、残酷なことに、才能がある故に「自分はモーツァルトに絶対に敵わない」ことにすぐに気がついてしまう。

モーツァルトが心底憎いサリエリは、間接的に「モーツァルト殺し」を実行する。しかし実は誰よりもモーツァルトを理解し、その作品を愛しているのもサリエリなのである。「敵こそが一番の理解者」とかよく言うが、しかし切ないのは、モーツァルトからはサリエリは眼中にも入ってないんだよね…。熱にうなされながらも命を削ってレクイエムを作曲するモーツァルトと、それを必死で書き写すサリエリ。結果的にサリエリは、モーツァルトの死を望みながら実は誰よりも彼の栄光に貢献していることになる。凡人はどこまでも天才の養分になってしまうのか…。

実際のサリエリは性格温和な紳士で、ベートーヴェンやリストも指導した名伯楽であり、音楽家のための互助組合を組織するなど、いわゆる「ノーブレス・オブリージュ」を誠実に果たした人であった。モーツァルトとも反りが合わないところはあったようだが、いわゆる不仲説はどうもモーツァルトの被害妄想に拠るものらしい。そうしたスキャンダラスな話に飛びつくのが世間というものだし、何より本作のストーリーはその「スキャンダル」にもとづくものなのだが、本作が契機となってサリエリの再評価がはじまったのは何とも皮肉な話でもある。
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