凛葉楓流

わが青春に悔なしの凛葉楓流のレビュー・感想・評価

わが青春に悔なし(1946年製作の映画)
3.7
前半の筋書きは高橋和巳の『悲の器』の回想そのもので驚いた。
同じ法学研究室仲間で、教授の娘を取り合う二人が対照的に描かれていて、堅実に検事になった主人公と左翼運動に身を投じた仲間への複雑な主人公の心境がとても印象に残った小説だったので、誰も指摘していないのは不思議。

この小説でも感じたけど、戦後の日本人の戦前に対する後悔というか、なぜここで止められなかった、自分だけ生き延びた、という意識がとても強い。戦争そのものというより、全体主義的体制に加担したことを重く受け止めている。

後半の農家の場面、村人から原節子と杉村春子に向けられる嘲笑は、森から聞こえる。無言でこちらを見つめる村人ら一人一人を執拗に撮った後、誰もいない森にカメラが向かって、そこから笑い声が聞こえる。しかも二回も。ここまで的確に日本型ファシズムを描く黒澤は凄い。

映画としては奇妙な印象を受ける。前半と後半のトーンが異なることはもちろん、序盤のピクニックで兵士が倒れていること、原節子が糸川に向かって土下座しろと強要する場面なんか、演出の意図がよく分からなかった。その場面の原節子の表情の微妙な変化が恐ろしい。あの微笑が崩れて無表情に戻る瞬間がこの映画には多すぎる。

登場人物たちは熱血漢ばかりで、原節子もその一人だ。農家で奮闘する後半のたくましさ、野毛との刹那的な結婚生活の場面の彼女の美しさの振れ幅の大きさ。
彼女の魅力というか魔力が引き出されている。
セリフも熱い。「自由というものは〜」という父の言葉。
もちろん、GHQのプロパガンダの一環ではあったんだろうけど、日本人が日本を再建する希望に満ちた素晴らしい映画だと思う。
凛葉楓流

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