たく

戦火の馬のたくのレビュー・感想・評価

戦火の馬(2011年製作の映画)
4.1
スピルバーグという監督のことを、私はずっと器用な監督だと思って来ました。あらゆる題材を、毎回、どれも見事な作品に仕上げて来たからです。ただ、この映画をみて、気づいたことがあります。彼は決して器用なんかじゃない。とても不器用な監督だということです。
彼は映画のなかで「この世は信じるに値する」ということを誰よりもシンプルに伝え続けているのではと。
せりに出されるジョーイ(馬)を、兵士たちが主人公のために買い戻そうとなけなしの金を集めたり、女の子の祖父が、せっかく競り落とした馬を、主人公が本当の持ち主だと知ると、無償で引き渡したり。。。
稚拙にも見えてしまったこの映画の終盤の描き方こそが、スピルバーグのスピルバーグたる所以なんだと、感じました。
「こっぱずかしくて、そんなわかりやすいメッセージの伝え方はしたくない」、そんな風に考え、隠喩を用いたり、あえて感動を売らない、そんな描き方をする監督がほとんどではないでしょうか。
でもスピルバーグの映画は、そんな次元を超えて、伝えたいことを無邪気な子供のように伝えるのです。その“下手くそさ”に気づいた瞬間に、クリエーターとしての純真さに気づいた瞬間に、涙が溢れて来ました。そして、この映画を素晴らしいと心から思えました。
たく

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