ラリーシモンという人はチャップリンやキートンやロイドの人気を凌ぐ時期さえあったということらしいけど、戦後日本ではかなりの間めちゃくちゃに忘れられて、「1993年3月14日に東京のイメージフォーラム開催『サイレント喜劇の絶頂期』にて、ラリー・シモン作品を初めて見た志村けんは相当に驚愕したという」などとウィキペディアに書いてて、へぇー、と思った。確かに三大喜劇王よりもめっちゃドリフ的な笑いをやってる。
この映画は『オズの魔法使い』の映画化なんだけどむしろパロディというか喜劇人たちがオズのキャラに扮するコメディバージョンみたいなやつ。
この映画以外でもいくつか短編とか見てみてもこのラリーシモンという人のギャグすごい。いわゆるスラップスティックなんだけど、三大喜劇王たちとけっこう違ってもっと漫画的なリアリティラインでやってて、とにかく喧嘩というか暴力によるドタバタが基本なんだけど、人を超高速でブンブンとぶん回したり、蹴り飛ばされたら何十メートルも吹っ飛んだり、何十メートルもの高さから落下しても普通に生きてるなぜならギャグだから、みたいなことをやってて、普通に笑ってしまうし、とにかくカートゥーンみたいな世界をちょいちょい特撮的なことも使ってやってて、それもわかりやすい合成とかどう見ても特撮ってわかる前提の特撮だったりして、キートンやロイドみたいなスタント的なギャグもやりつつあくまでももっとチープな笑いというか。『ホームアローン』とかのギャグの源流がこっちにあったのかって感じ。
稲垣足穂の『一千一秒物語』で、「夜道を歩いてたらお月様にいきなりぶん殴られた」とか「星にいきなり突き飛ばされた」とか「ほうき星と喧嘩してピストルで撃った」みたいな、ダダイスムとか表現主義はわかるけど、なんでそんな暴力で溢れかえってるんだと思ってたけど、足穂はスラップスティックコメディが好きで特にラリーシモンが好きだったと読んで、でラリーシモンの映画を見てみて初めて、ああこういうノリの世界だったのか『一千一秒物語』は、というのがやっとわかった。