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ドゥ・ザ・ライト・シングのキューブのレビュー・感想・評価

ドゥ・ザ・ライト・シング(1989年製作の映画)
4.5
 こんな映画今まで見たことない。使われている音楽のセンスや、カメラの構図、ぶっ飛んだキャラクター。こんなにも忘れがたい映画があるのだろうか。
 実は映画のほとんどはムーキーとその周囲の人間のけだるい一日を描いている。大抵の人はこの事実を知った時点でうんざりするだろう。たしかに何も起こらない。だが一時たりとも画面から目を離せないはずだ。サルのピザ屋でのムーキーとサルの息子達の微妙な距離感。真っ昼間から何もせずに街をぶらつく黒人の若者達。道ばたのいすに腰掛けてどうでもいい話を延々とするおっさんたち。どこまでもリアルだ。皆が持つ微妙ないらだちがテンポの良い会話の中にサラリと含まれている。笑えるのにとても緊張感があるのだ。この登場人物達の会話がこの映画の中核を担っている。
 もう一つこの映画を見たら触れておかなければならないことがある。もちろん人種間の差別感情だ。ブルックリンという街を舞台にしているから、実質住んでいる人々の所得などに大差はないだろう。しかし少ないともいえど、イタリア人(つまり白人)のサルは店を構え立派に商売をやっている。だがそこで働くムーキーはあくまで雇われの身である。このピザ屋にはアメリカという社会の縮図があるのだ。同じ環境で暮らし、慣れ親しんだ友達のように喋るが実は目には見えない怒りの感情がある。顕著なのはムーキーが仲間の黒人達と軽口をたたくときと、ピザ屋でサルの子供と話すとき。どっちも汚い言葉を使っているのに、ムーキーの表情は全く違う。この人種間の越えられない壁をスパイク・リーは的確に描き出しているのだ。だからこそクライマックスは驚くほどパワフルで衝撃的だ。間違いなく観客は混乱するだろう。なぜこうなってしまったのか、一体誰が悪いのか。決定的に悪い人物が以内から余計に困る。何しろ登場人物たち自身が混乱してしまっているのだ。誰もが忘れていた’60年代の事件を現代に蘇らせた。
 少々荒削りなところはあるものの、他の映画には見られないこの映画ならではの「演出」のほとんどは成功している。映画としても秀逸で、人々に問題提起をすることを忘れていない。人生で一度は見るべきだろう。見終わった後、改めてこの映画のタイトルに考えさせられる。
(12年5月28日 BS 4.5点)
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