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その土曜日、7時58分のlorcaのレビュー・感想・評価

その土曜日、7時58分(2007年製作の映画)
4.5
時間軸を逆行させ、同じ場面を複数の登場人物の視線で繰り返す緊迫した編集によって、蟻地獄に飲み込まれていくかのような物語の救い難さがひしひしと伝わってくる。その苦味と骨太さ!

オープニングはフィリップ・シーモア・ホフマンとマリサ・トメイの夫婦によるベッドシーン。パンパン!ってアフレコがわざとらしく笑う。フィリップのケツが汚い! これが生臭くていい。劇場で観たとき、場内がいきなりドン引きしているような雰囲気を感じた。

実家の宝石店への強盗計画を企てた兄弟(フィリップとイーサン・ホーク)の二人だけが主人公ではない。余生を送る父(アルバート・フィニー)を加えたトライアングルこそが本作の土台だ。

それは後半以降、父の動向がドラマの鍵を握ることでも明らかだろう。いくら老いても父は父、若い息子たちに腕力は及ばなくても、最終的には家族の意思決定を司ろうとする。息子たちはむしろいくつになっても、無意識に父のゆるぎない「決断」を待っており、そしてできればその「決断」が、自分たちへの情状酌量を含んだものであってほしい、と内心思っている。

それが本作の父子の関係性でもあり、いわば父性社会の現実でもある。母の葬儀で父から許しを乞われたフィリップが、帰りの車の中で"It’s too late"と言いながら嗚咽する場面。観客は到底もらい泣きなどできず、ただため息をつくしかない。

こうして、父は息子たちに判決を下す。しかし、おそらくそれは自らへの判決を含んでいた。現代の神話って感じがいい。

インテリアのスタイリングにも惹かれた。フィリップのオフィスとか、ヤクの売人のマンションの一室とか。黒と白を基調にした極度に洗練されたコーディネートが、物語の内実と呼応することで異様なニヒリズムを醸し出している。
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