猫脳髄

地獄のモーテルの猫脳髄のレビュー・感想・評価

地獄のモーテル(1980年製作の映画)
3.6
殺人と人肉食をモティーフにしながら、血がほとんど流れないというまことに稀有なブラック・コメディ。脚本を手掛けたジャッフェ兄弟(※1)は当初、トビー・フーパ―を監督に想定していたが、イギリス系のケヴィン・コナーに白羽の矢が立った。コナーの主導で脚本上のゴア表現が変更され、アメリカ的なモティーフをイギリス的に撮るというねじれが生じた結果、血みどろスラッシャー映画が隆盛を極めた時期に、孤高の地位を築く珍作品に仕上がった。

思想強め(※2)のロリー・カルホーンとナンシー・パーソンズの兄妹が営む自家製ベーコンが自慢のモーテル(※3)には秘密があった。なんと誘拐した人びとを材料にしていたのだ。そこに何も知らないヒロインが居候することになり、一家のなかに変化が生じる、という筋書き。

フーパ―「悪魔のいけにえ」(1974)や「悪魔の沼」(1976)のド田舎・厭家族スラッシャーの枠組みを継承しつつ、マンハントシーンとその獲物を植え込んだ畑や収穫の様子、モーテルに集う奇人変人たち、一家の末っ子でもある保安官とヒロインのロマンスと多彩なエピソードを盛り込みながら、クライマックスのチェーンソー対チェーンソーの活劇に突入する。この枠組みでゴア表現にほぼ頼らなかったのは、もはや意地である。

西部劇などで活躍したカウボーイ姿の二枚目中年カルフーンと、肥満体で愛嬌と凄味を振りまくパーソンズのコンビが秀逸で、特にパーソンズの怪演には特筆すべきものがある。正直なところ、矛盾やおざなりになった設定も多々あるが、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」へのオマージュをかましたり、無意味に豚の頭を登場人物に被らせてみたり(初出?)とヴィジュアル面では見どころが盛りだくさんである。

※1 兄のロバートはドナルド・キャメル「デモン・シード」(1977)の脚本を担当。あれも怪作だった
※2 ずっとテレビ伝道師の番組が流れているのも「厭な南部感」があるが、人肉食に傾倒しているのには、意外に高邁な理由がある
※3 ネオンサイン"MOTEL HELLO"が一部抜け落ち、"MOTEL HELL"に見えるツカミが憎い
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