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大病人のSadAhCowのレビュー・感想・評価

大病人(1993年製作の映画)
4.0
2021 年 76 本目

老境を迎えた映画監督・向井武平(三國連太郎)がガンで亡くなるまでの 1 年間を描いた映画…と聞けばなんかしんみりした作品を思い浮かべてしまうが、伊丹作品の主役なのでそう一筋縄にいくかわいいキャラではまったくなく、病室に酒を持ち込むわ、看護婦を口説くわ、愛人を連れ込むわ、この愛人がやたら美人でうらやまけしからんわ(高瀬春奈だからな…)、とにかく無茶苦茶な男である。お涙頂戴至上主義の昨今のドラマや映画ならべったべたに泣かせるシーンばかり入れてくるのだろうが、この向かいのキャラ付けのおかげで軽快なコメディに仕上がっている(最後の往生シーンはやや出来すぎというか、向かいが死ぬのをみんなが今か今かと待っているような妙なシュールさがあった)。

告知のあり方や終末医療などの議論もこの当時(1993 年)と比較すれば随分進んだとは思うが、でも医療という行為が根本的には「患者を生かすこと」より「患者を殺さないこと」になってしまっているという問題は今でも存在する。正直なところ、がんがんに投薬したり電気ショックを与えて身体を叩き起こしたりしてまで「殺さない」ことに何の意味があるのか…。そう思うのも私が若いからなのだろうか。

この映画は個人的に思い出深い作品で、子供の頃に映画好きの祖父と一緒に鑑賞した覚えがある。向井が生死の間を彷徨うシーンが子供心にとても恐ろしく(ほっぺたからトウモロコシがどばーの場面が特に…)、妻の万里子(宮本信子)が病室に愛人を連れ込んでいた向井に平手打ちをかますシーンも怖かったな。女の人のおっかなさは宮本信子で学んだ気がする(気のせいやろ)。
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