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激突!のmanacのレビュー・感想・評価

激突!(1971年製作の映画)
4.5
恥ずかしながら、巨匠スピリバーグの出世作である本作を存じ上げませんでした。
レビューを覗いていたら偶然見つけた作品。他人様のレビューっていいよね、こういう出会いがあるから。
40年以上に渡り語り継がれるワケがよく分かりました。

ただひたすらトレーラーに追いかけられるだけの作品。
湯水のように製作費を注ぎ込んだ派手なハリウッド大作を見慣れた現代人には物足りない程の簡素な構成と映像。
それなのに引き込まれるスピルバーグマジック。

「怖い」と感じるのはやはり「わからない」からであろう。
トレーラーの運転手の顔は分からず、追いかけられる理由も分からない。
無機質なトレーラーだけが目に見える全てであり、まるでターミネーターに追いかけられているような絶望感に襲われる。
主人公マンはトレーラーに追い越しをかけてはいるが、ここまで執拗に追い詰められる程とは思えないし、他の車が追い越しをかけてもトレーラーはひたすらマンのみを追い続ける。
なんで?とうして自分だけ?どこまで追いかけてくるつもりなの??
グイグイ引き込まれる。
鑑賞後、冷静に考えると何で警察に電話しているところとか、うまく巻いたはずなのにどうやって気づいたん?と思い返してみたが、鑑賞中はそんなこと考える余裕もない程の緊迫感がある。
「恐怖」をよく知っているのだろう、スピルバーグは。



★★★★★車が素敵
主人公の車はプリムス・ヴァリアントというらしい。
当時はカクカクしたデザインが主流だったのか、他の車もカクカク。
まるで高級車のようだけれど、これ、コンパクトカーらしいです。
劇中マン自身も速度や馬力に対してマイナスな発言をしているし、ごく普通のファミリーカーなのだろう。あんなに大きなボンネットなのに。
驚いたのが、AT車であったことだった。
ルパン三世の第二シーズンの放送開始が77年だったが、ゲストヒロインがMT車を運転していた。だから、なんとなく70年代はまだMT車しかないのかと思っていたが、まさかのヴァイラントAT車。
もしかして高級車?
自動車に詳しい人が見たら、更に面白い見方ができるのかもしれない。



★★★★★色遣いが秀逸
マンの車は赤いボディだが、真紅の真っ赤ではない。黄みのある、日本の朱色に近い赤。
このチョイスはセンス抜群だ。
南部の荒野には黄みがある赤の方が映えるだろう。
砂色の荒野と錆色のトレーラーの中間色であるマンの車のバランスが絶妙。物語が進んでいくにつれワックスの効いたピカピカのボディだったヴァリアントは砂で汚れ、どんどんくすんでくる。
一方、マンの妻は白いドットの真っ赤なワンピースに真っ青なエプロン。なかなかのコントラスト。
この鮮やかな色調が日常だとすると、物語が進む程に明度が下がるカラーはマンがどんどん日常から離れ恐怖の非日常に向かっている様子が現れている。
ラスト夕日が沈む中小石を投げ続けるマン。日常の明るい色彩の中に戻れるのだろうか。
つーか仕事どうした?カフェに入った時点で既に仕事のことすっかり忘れてるよね?



「すごい!」と感じるところは多くあり、非常に完成度の高い作品ではると思うが、どうも★5つつけるには悩むところがあった。
粗探しをしようとして2回鑑賞したが、粗は特に見つからなかった。
時代やこの後の巨匠のご活躍を知っているからこそ「さすがスピルバーグ!」と思えるのであって、何も知らなければここまでの感動はないだろう。スリラーとしては上出来だが、アクションとしてはやはり技術的な差で現代作品と比較すると地味だ。
私は、ミュージカルのように衣装やセットや音楽が華やかなものやド派手なアクションムービーが好みだ。
好みの問題で満点にはならなかったが、素晴らしい作品であることに間違いはない。



様々な点で魅力的な作品であるが、プロットは至ってシンプルである。
それゆえに、色んな監督に作って貰えたらそれぞれの個性が際立ち、見比べたらとても楽しいことになりそうだ。

例えば…
ヒッチコック
→現状でもどこかヒッチコックを思わせる音楽の使い方だったが、ヒッチコックなら更に盛り上げる音楽と共によりスリラー感が増す。
タランティーノ
→登場人物皆オカシイ。電話交換手がなかなか電話を繋いでくれない、スタンドの店員が勝手に車を修理しだした挙句壊す等、ただでさえ短気で短絡的な主人公のイライラマックス。タラ監督ならあのスタンドの蛇おばちゃん、相当魅力的になりそう。
キャメロン
→出てくる車やスタンドは軒並み激しく爆発し炎上。主人公は大きなケガをしながらも自ら応急処置をしてデュエル!
ベッソン
→やはりド派手なカーチェイスは外せない。ヴァリアントは改造されスーパーカーに。
ノーラン
→時系列やら記憶やらを交錯させ、難解な物語に。
ラーマン
→トレーラーは派手なデコトラに、立ち寄るカフェはバーレスクに、目的地はラスベガスが望ましい。
バートン
→ゴシックホラーに。舞台はいっそ東欧辺りで。もう馬車でもいいや。
コッポラ(父親の方)
→とりあえず格調高くなりそうだけど、具体的にどうなるのか想像つかない…。一番見てみたいかも。
デ・パルマ
→流血は必至。
駿
→トレーラーが飛ぶ。
ダニエルズ
→トレーラーが水を吹き出す。

妄想しているだけで楽しい。
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