朧気sumire

砂の器の朧気sumireのレビュー・感想・評価

砂の器(1974年製作の映画)
5.0
有名であろう終盤の演奏シーンのカタルシスもさることながら、古き良き昭和の景色を堪能できる道中記の色も強い。
昭和の夏がめっちゃ綺麗……。列車の感じすごく良い。郷愁を感じる。こんな場所に行きたい。
刑事ドラマというより父子の絆を描いた人間ドラマ。

祖父の話を聞くと当時のハンセン病患者に対する偏見と差別は凄まじく患者とその家族の苦しみは筆舌に尽くしがたかったそう。
色々な場所で患者を強制収容させて県内から追い出そうとする運動が始まり、劣悪な環境にある寮に患者達は押し込められていった。ハンセン病患者及びその家族というだけで罪人に仕立てあげられ根拠も薄いまま逮捕、処刑される事もあった。不妊手術、断種を強要される事も多かった。

その時代を生きて体感してきた祖父と、いまいち馴染みのない私とではこの映画に寄せる"熱"が明らかに違っていたのはよく覚えてる。
でも上記の話を聞くと犯人の「バレてはいけない」「どんなに良い人でも、自分の過去を知る人は1人もいてはならない」と思うのはやむ無しなのではと思う。
基本的人権の尊重もない生活をまた送るはめになると考えれば私だって絶対バレたくない。
今のバラ色な人生を得るためにした努力は計り知れないものだっただろうし。

本人にはどうしようもなかった事が原因で殺人を犯してしまった。そして本来殺されなくてもよかった人が殺されてしまった。
殺人の原因を作ってしまった社会(私達)の罪を突きつけられるようで、なんともやり切れない映画だった。

でも正直に言うと個人的に殺された人にはイラッとしてしまった…。離れ離れになって付き合いを断つことこそ良いと思ってその苦しみに耐えてきた父子の絆を理解せず「なにがなんでも会わせる」というのは押しつけがましい。

その後もたびたび映像化されてますがこれが1番胸の底に焼きつきます。
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